判旨
占有保持の仮処分事件において、債務者の賃借権等の本権に関する理由に基づき占有の事実を否定したとしても、それが占有の疎明がないことを趣旨とするものであれば、直ちに本権の理由に基づいて占有の主張を排斥したものとはいえない。
問題の所在(論点)
裁判所が占有の存否を判断する際に「賃借権に基づく占有の疎明がない」と判示したことが、民法202条2項(占有の訴えについては本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない)に抵触するか。
規範
占有の訴えにおける本権による裁判の禁止(民法202条2項)の趣旨に照らし、裁判所が占有の有無を判断するにあたって本権に関する事実を認定に用いたとしても、それが占有事実の存否を確定するための疎明資料として用いられている限り、本権の理由に基づいて占有の主張を排斥したものとは解されない。
重要事実
上告人(被控訴人)が、本件店舗について賃借権に基づく占有を有していると主張して占有保持の申立てを行った。原審(福岡高裁昭和27年7月11日決定)は、「被控訴人が右店舗について賃借権に基く占有を有していることは疏明されない」と判示して上告人の主張を退けた。これに対し上告人が、原審は本権に関する理由に基づいて占有を否定したものであり、民法202条2項に違反すると主張して上告した事案である。
あてはめ
原判決の判示を全体として総合すれば、上告人が本件家屋を実際に占有しているという事実について疎明がないという趣旨であることが十分に看取できる。たとえ「賃借権に基づく占有」という本権に触れる表現を用いたとしても、それは占有という事実上の支配が認められないことを説明するための理由に過ぎない。したがって、原審が本権の有無そのものを裁判の基準として占有の主張を排斥したとは認められない。
結論
原審の判断に民法202条2項違反の違法はなく、占有事実の疎明がないとして上告人の主張を排斥した判断は正当である。本件上告は棄却される。
実務上の射程
民法202条2項の「本権に関する理由に基づく裁判の禁止」の限界を示す。実務上、占有の存否を判断する過程で、占有の根拠たる本権(賃借権等)の存否が事実認定の資料として現れることは避けられないが、最終的に「占有の事実」の存否として結論付けている限り、同条項には反しないという認定手法を肯定したものといえる。
事件番号: 昭和24(オ)217 / 裁判年月日: 昭和26年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有妨害排除の請求権を保全するための仮処分においては、債権者が占有権を有することを疏明すれば足り、その基本となる権利(本権)についての疏明までは不要である。また、工場建物と共に機械器具等を一括して転貸借した際、それらが建物の従たるものと認められる場合には、当該契約には借家法が適用される。 第1 事…