判旨
占有権を被保全権利とする仮処分申請において、債権者による占有の事実に疎明がない場合には、当該申請は却下されるべきである。事実認定の基礎となる疎明資料の取捨選択は、特段の事情がない限り事実審裁判所の合理的な裁量に属する。
問題の所在(論点)
占有権を被保全権利とする仮処分申請において、被保全権利の要件である「占有の事実」の疎明が認められない場合に、申請を却下した判断の正当性が問われた。
規範
民事保全手続において仮処分を命ずるためには、被保全権利及び保全の必要性の疎明が必要である。占有権に基づく妨害予防等の仮処分を求める場合、申請人は、自己が当該物件を現に占有していること、又は占有を奪われたこと等の占有の事実を証拠(疎明資料)によって裁判所に確信させる程度に示さなければならない。これらの事実認定及び証拠の評価は、論理則・経験則に反しない限り、事実審裁判所の専権に属する。
重要事実
再上告人(債権者)は、被再上告人(債務者)が係争土地に対する占有を妨害する恐れがあるとして、占有権を被保全権利とする仮処分を申請した。これに対し、原審は、被再上告人が再上告人から土地の返還を受けて稲作収穫を行い、その後も継続して自ら占有・耕作の準備(あとおこし等)をしていた事実を認定した。一方で、再上告人が主張する占有の事実に合致する証拠(証書や証言)については、信用性に欠けるとして排斥した。
あてはめ
本件では、当事者間に争いのない事実(被再上告人による稲作収穫の事実)や複数の証人、本人尋問の結果を総合し、被再上告人が継続的に土地を占有していたと認定されている。再上告人が提出した占有を裏付ける疎明資料は、これらの客観的状況や他証言と相容れない内容であり、信用できないとして合理的に排斥されている。農地調整法の適用を考慮すべきとの主張もあるが、占有の存否という事実認定を覆すに足りる疎明はなされていない。したがって、占有の事実を欠く以上、被保全権利の疎明がないといえる。
結論
占有事実の疎明がないとして仮処分の申請を却下した原審の判断は正当であり、再上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
本判決は、占有権に基づく仮処分における被保全権利の疎明の重要性を確認したものである。答案上は、保全処分の要件検討において、被保全権利の存在が単なる主張にとどまらず、事実審の裁量範囲内において証拠による疎明を要することを論じる際の根拠となる。事実認定に関する裁量を重視する姿勢は、実務上の標準的な判断枠組みを示している。
事件番号: 昭和24(オ)217 / 裁判年月日: 昭和26年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有妨害排除の請求権を保全するための仮処分においては、債権者が占有権を有することを疏明すれば足り、その基本となる権利(本権)についての疏明までは不要である。また、工場建物と共に機械器具等を一括して転貸借した際、それらが建物の従たるものと認められる場合には、当該契約には借家法が適用される。 第1 事…