判旨
占有妨害排除の請求権を保全するための仮処分においては、債権者が占有権を有することを疏明すれば足り、その基本となる権利(本権)についての疏明までは不要である。また、工場建物と共に機械器具等を一括して転貸借した際、それらが建物の従たるものと認められる場合には、当該契約には借家法が適用される。
問題の所在(論点)
1. 占有妨害排除請求権を被保全権利とする仮処分において、占有の本権(転借権等)の疏明が必要か。 2. 工場設備一式を含む建物の転貸借契約に対し、借家法が適用されるか。
規範
1. 占有妨害排除請求権の保全を目的とする仮処分においては、保全されるべき権利として「占有権」を有することを疏明すれば足り、占有の基本となる本権(賃借権等)の疏明までは必要としない。 2. 建物と共に機械・工具什器等の営業設備を包含して転貸借する場合であっても、それらが建物に従たるものとして一括して貸し出されるときは、営業の転貸借に準ずる契約であっても借家法の適用を免れない。
重要事実
債権者(被上告人)は、上告人Aに対し建物の引渡を、上告人両名に対し占有妨害排除を求めて仮処分を申請した。対象物件は、工場建物6棟およびこれに付随する機械・工具等一式である。当時、上告人Aは家財をまとめて移転準備を整え、作業場を閉鎖して事業を停止していた。被上告人は占有権の存在については争いがないものの、転借権の有効性等について上告人側から争いがあった。原審は、上告人Aが移転準備を終えていた等の特別の事情を考慮し、被上告人が避けようとする損害の程度を対比して仮処分の必要性を認めた。
あてはめ
1. 本件仮処分のうち占有妨害排除を命ずる部分は、占有権の保全を目的とするものである。記録上、被上告人が占有権を有することは争いがないため、その基本となる転借権の存否について判断を待たずとも、保全の必要性を認めることができる。 2. 本件転貸借は機械・工具等を含むが、これらは建物の転貸借に従として包含されるものである。たとえ営業の転貸借に近い性質を有していても、建物の転貸借である以上、借家法を適用して保護を図るべきである。 3. 仮処分の必要性については、上告人Aが既に移転準備を完了し事業を停止していたという事実から、債務者の不利益に比して債権者の損害回避の必要性が高いと評価できる。
結論
占有妨害排除請求権の保全には占有権の疏明で足り、本権の疏明は不要である。また、本件転貸借には借家法が適用されるため、これらを前提とした仮処分認可は妥当である。
実務上の射程
占有訴権に基づく保全処分において、本権の存否に関する審理を待たずに迅速な権利救済を認める実務上の指針となる。また、設備込みの建物貸借における借家法適用の判断基準(主従関係の重視)としても活用できる。
事件番号: 昭和23(テ)2 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有権を被保全権利とする仮処分申請において、債権者による占有の事実に疎明がない場合には、当該申請は却下されるべきである。事実認定の基礎となる疎明資料の取捨選択は、特段の事情がない限り事実審裁判所の合理的な裁量に属する。 第1 事案の概要:再上告人(債権者)は、被再上告人(債務者)が係争土地に対する…