一 占有の訴を本案とする仮処分申請の当否については、専ら占有関係によつてのみ判断すべきであつて、本権の理由(特別都市計画法第一四条による換地予定地を使用収益し得る権原)によることを得ない。 二 換地予定地の指定があつても、従来の事実上の占有状態に変更のないかぎり、当然には、その土地の占有権に変動移転を生ずるものではない。 三 換地予定地の占有者が、同土地について、換地予定地の指定を受けた者を相手方として、占有の訴を本案とする立入禁止、占有妨害禁止の仮処分を申請した場合、右仮処分は行政権の作用を阻止するものではないから、これを許しても、行政事件訴訟特例法第一〇条第七項に反しない。
一 占有の訴を本案とする仮処分申請と本権の理由による判断の可否 二 換地予定地の指定と占有権移転の有無 三 換地予定地の指定を受けた者に対し占有の訴を本案として立入禁止の仮処分をすることは行政事件訴訟特例法第一〇条第七項に反ずるか
民法202条2項,民法180条,特別都市計画法14条,行政事件訴訟特例法10条7項
判旨
占有権は事実上の支配に対する法律効果であり、換地予定地の指定による使用収益権(本権)の発生のみでは占有権は当然に移転しない。そのため、占有保持の仮処分が行政権の作用を阻止しない限り、本権の有無に関わらず占有のみに基づき仮処分を請求できる。
問題の所在(論点)
1. 換地予定地の指定という行政処分により本権(使用収益権)が発生した場合に、占有権も当然に移転し、占有保持の請求ができなくなるか。 2. 私人間における占有保持の仮処分は、行政処分に基づく権利行使を巡るものである場合、行政権の作用を阻止するものとして禁止されるか。
規範
1. 占有権は物の所持という事実に付せられた法律効果であり、使用収益をなし得べき本権とは別個のものである。したがって、換地予定地の指定という本権の発生があっても、事実上の占有状態に変更がない限り、当然に占有権が移転することはない。 2. 占有保持の訴え等においては、専ら占有関係によってのみ判断すべきであり、本権の理由に基づくことはできない。 3. 民事上の仮処分であっても、行政権の行使を直接阻止するものでなく、かつ行政処分によって生じた法律効果(本権の帰属等)を否定しない限り、行政事件訴訟法上の制限(旧特例法10条等)は受けない。
重要事実
上告人は、被上告人に対し、占有保持の訴えを本案として、立入禁止および占有妨害禁止の仮処分を申請した。これに対し、原審は特別都市計画法14条に基づく換地予定地の指定により、被上告人が使用収益権を取得したことを理由に、上告人の申請を棄却した。また、原審は当該仮処分が行政権の作用を阻止するものであるとして、行政事件訴訟特例法10条(現行行訴法44条に相当)に基づき許されないと判断したため、上告人が上告した。
あてはめ
1. 占有権の帰属:換地予定地の指定により被上告人が本権を取得したとしても、事実上の占有状態に変更がない限り、上告人の占有権は失われない。本件申請は占有に基づくものであり、原審が本権の有無(特別都市計画法14条)を理由に占有妨害停止請求権を否定したのは、占有権と本権を混同した誤りがある。 2. 行政権の阻止:本件仮処分は私人間のものであり、施行者(市長)を当事者とするものではない。また、仮処分がなされても被上告人の本権自体は否定されず、被上告人は別途本権に基づき明渡請求をなし得る。したがって、行政処分による法律効果や施行者の権限行使を何ら阻止するものではないため、行政事件訴訟特例法10条には抵触しない。
結論
占有権は本権と独立して判断されるべきであり、行政処分による本権の発生のみをもって占有権が当然に消滅するとはいえない。また、本件仮処分は行政権の行使を阻止しないため、原審の判断には法令適用の誤りがあり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
民法188条(権利の適法推定)や202条(本権との関係)の解釈において、行政上の処分により本権が変動した場合であっても、事実上の支配(占有)が継続する限り占有訴権が認められることを示す射程を持つ。また、行訴法44条の「行政庁の処分を取り消し、又は無効を確認する訴訟」の排他的管轄や執行停止の議論において、行政処分の効力そのものを争わない私人間紛争については民事仮処分が可能であるという限界を示す際にも活用できる。
事件番号: 昭和24(オ)217 / 裁判年月日: 昭和26年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有妨害排除の請求権を保全するための仮処分においては、債権者が占有権を有することを疏明すれば足り、その基本となる権利(本権)についての疏明までは不要である。また、工場建物と共に機械器具等を一括して転貸借した際、それらが建物の従たるものと認められる場合には、当該契約には借家法が適用される。 第1 事…
事件番号: 昭和24(オ)215 / 裁判年月日: 昭和27年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有保持の仮処分事件において、債務者の賃借権等の本権に関する理由に基づき占有の事実を否定したとしても、それが占有の疎明がないことを趣旨とするものであれば、直ちに本権の理由に基づいて占有の主張を排斥したものとはいえない。 第1 事案の概要:上告人(被控訴人)が、本件店舗について賃借権に基づく占有を有…