一 仮処分事件において、債権者主張の事実につき疏明がない場合に、債権者に保証を立てさせて仮処分を命ずるか否かは、裁判所が自由裁量により決しうるところで、常に仮処分を命じなければならないものではない。 二 信託法第三条は、信託の趣旨をもつて財産権を譲渡した場合においても信託の登録又は登記をしなければ、その譲渡の信託なることをもつて第三者に対抗することができない旨を定めたに止まり、譲渡の登記があるにかゝわらず、その譲渡までも対抗できない趣旨を定めたものではない。
一 債権者主張事実の疏明がない場合と保証を立てさせて仮処分を命ずるか否かの裁量 二 信託法第三条の法意
民訴法740条,民訴法741条(756条),信託法3条
判旨
仮処分事件において債権者の主張事実に疎明がない場合でも、裁判所は保証を立てさせて仮処分を命じ得るが、それは裁判所の自由裁量に属し、常に命じなければならないものではない。
問題の所在(論点)
民事保全法上の仮処分申請において、主張事実の疎明が不十分な場合に、裁判所は債権者に保証を立てさせた上で必ず仮処分を命じなければならないか。裁判所の裁量の有無が問題となる。
規範
仮処分命令の発令要件に関し、被保全権利または保全の必要性について十分な疎明がない場合であっても、裁判所は、債権者に保証を立てさせて仮処分を命ずることができる。しかし、この規定による発令は裁判所の自由裁量に委ねられており、疎明が欠けている場合に必ず保証をもって疎明に代え、仮処分を命じなければならない義務を負うものではない。
重要事実
上告人(債権者)は、被上告人(債務者)に対し、本件家屋の占有権等に基づき仮処分を申請した。原審は、上告人の主張事実(被保全権利等)について疎明がない一方で、被上告人の主張事実については疎明があると認めた。その上で、上告人に保証を立てさせて仮処分を命ずることも不適当であると判断し、本件仮処分申請を却下した。これに対し上告人が、保証を立てさせれば発令すべきであるとして上告した事案である。
あてはめ
本件において、上告人の主張事実に疎明はなく、逆に被上告人の主張事実には疎明が認められた。このような状況下で、裁判所は諸般の事情を考慮し、保証を立てさせて仮処分を命ずることが不適当であると判断した。疎明に代わる保証による発令は、裁判所の職権による自由裁量に属する事項であるから、疎明がないことを理由に申請を却下した原審の判断に違法はない。
結論
仮処分の疎明を保証の提供で補うか否かは裁判所の裁量であり、疎明がない場合に保証による発令をしないことは適法である。
実務上の射程
民事保全法13条2項(及び同法23条1項)の解釈に関する射程を持つ。答案上は、保全処分の発令要件において「疎明」が原則であることを示しつつ、保証による補完が裁判所の義務ではないことを論証する際に活用できる。裁量権の逸脱・濫用がない限り、疎明不足による却下は正当化される。
事件番号: 昭和24(オ)12 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
仮処分の申請において、被保全権利の疏明がなく、裁判所が保証をもつて疏明に代えることを不適当と考えるときは、仮処分の理由の存否を判断しないで仮処分の申請を却下することができる。