判旨
裁判所が証拠の信憑性がないと判断してこれを採用しない場合、その具体的な理由を論理的に解明して判決に説示する必要はない。自由心証主義は、法定証拠主義からの解放のみならず、証拠の採否決定における心証形成の理由解明を要しない意義も包含する。
問題の所在(論点)
裁判所が証拠の信憑性を否定して採用しない場合、判決書においてその具体的な理由を説示する義務があるか。自由心証主義と理由付記義務の関係が問題となる。
規範
自由心証主義の下では、裁判所は証拠の信憑性に対する心証形成について、論理的にその理由を解明することなく証拠の採否を決定できる。証拠の信憑性は、証拠の内容、成立過程、その他諸般の事情が相互に関連し混然一体となって形成されるものであり、個々の事由を分離独立させて説明することは、事物自然の道理に反し不可能であるから、証拠を措信しない理由を判決に説示する必要はない。
重要事実
上告人(賃貸人)が、被上告人(賃借人)に対し、期間満了または解約申入れによる建物の明渡しを求めた事案。原審は、上告人が主張する「期間の定め」や「自ら営業する以外に生計を立てる道がない」という正当事由の根拠事実について、上告人が提出した証拠(疎明方法)を「措信し得ない」として退けた。上告人は、原審が証拠を措信し得ないとする理由を説示しなかったことが、理由不備の違法にあたると主張して上告した。
あてはめ
疎明は証明に比して低度の蓋然性で足りるが、証拠の信憑性が度外視されるわけではない。提出された証拠に信憑性がない限り、その内容が要証事実に符合しても疎明があったとは認められない。本件原判決は、上告人が戦災で資産を失った等の事情は認めつつも、その後に立派な店舗や住宅を新築したという事実を挙げ、上告人の困窮という主張には疎明がないと判断した。証拠を措信しない理由を具体的に示さなかった点に違法はない。
結論
裁判所は、証拠を措信しない理由を詳細に説示する必要はない。したがって、原判決に理由不備の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
民事訴訟における事実認定のプロセスにおいて、裁判所の広範な裁量を認めたものである。答案上は、判決の理由不備(民訴法312条2項6号)や自由心証主義(247条)の限界が問われる場面で、証拠の採否・評価に関する判断過程の不開示が直ちに違法とならない根拠として引用できる。
事件番号: 昭和27(オ)445 / 裁判年月日: 昭和29年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分異議手続において、裁判所は債権者が主張する借地権の存否を判断するため、債務者の抗弁に基づき賃貸借の更新拒絶に関する正当事由の有無を審判することができる。 第1 事案の概要:債権者が借地権の存在を主張して仮処分を申し立てたのに対し、債務者は賃貸借契約の更新を拒絶する正当事由がある旨を抗弁として…