判旨
占有回収の訴え(民法200条)が認められるためには、従前の占有者の事実的支配が完全に排除され、占有が侵奪者に全面的に移転したといえることが必要である。
問題の所在(論点)
民法200条1項の「占有を奪われた」といえるためには、どの程度の支配の移転が必要か。一部の妨害や競合状態において占有の侵奪を認めることができるかが問題となる。
規範
民法200条1項にいう占有を「奪われた」場合(占有の侵奪)に該当するためには、占有者の意思に反してその事実的支配が排除され、かつ、その占有が他者に完全に帰属したといえる状態に至ることを要する。一部の侵害にとどまり、依然として従前の占有者の事実的支配が及んでいる場合には、占有の侵奪には当たらない。
重要事実
上告人と被上告人の間で係争地の支配を巡る争いがあった。上告人は、被上告人に対して占有回収の訴えを提起したが、原審(判決文からは詳細不明)は事実関係に基づき、被上告人の係争地に対する事実的支配が排除されたとは認められないと判断した。これに対し、上告人が民法200条の解釈を誤っているとして上告した事案である。
あてはめ
本件において、被上告人の係争地に対する事実的支配が完全に排除された事実は認められない。すなわち、占有が全く上告人に帰した(独占的な支配が成立した)ものということはできない。したがって、被上告人が依然として事実的支配を保持している以上、上告人の占有が「奪われた」という要件を充足することはないと解される。
結論
被上告人の占有が排除され、上告人に占有が完全に移転したとはいえないため、占有回収の訴えは認められない。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)346 / 裁判年月日: 昭和36年6月6日 / 結論: 棄却
一 債務者の占有を解き執行吏の保管に付する旨の仮処分執行として、執行吏が目的物件を所持するに至つても、執行債務者が目的物件に対する占有を侵奪されたことにはならない。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合、執行債務者が換価金に対する占有を侵奪されたことにはなら…
占有回収の訴えにおける「侵奪」の意義を厳格に解する。単なる占有の妨害(201条2項)と、占有の奪取(201条3項)を峻別する基準として機能する。答案上は、占有が完全に失われていない段階で本条を認めることはできないことを論証する際に用いる。
事件番号: 昭和54(オ)616 / 裁判年月日: 昭和57年3月30日 / 結論: その他
甲会社がレストラン営業を開始するにつき従業員乙を支配人格とし、同丙をコック長として両名に一任し、外一一名の従業員とともに営業に従事させ、営業遂行に必要な限りにおいて継続的にその店舗を専用させていた、との事実関係のもとにおいて、右乙、丙ら一三名の従業員をもつて甲会社の占有補助者であるとしながら、乙、丙らが甲会社に対し退職…
事件番号: 昭和33(オ)763 / 裁判年月日: 昭和35年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制執行により建物の占有を取得した者が、その直後に占有を侵奪された場合、占有回収の訴え(民法200条1項)によってその回復を求めることができる。 第1 事案の概要:被上告人は、昭和28年10月12日、執行力ある和解調書に基づく明渡しの強制執行により、本件三室の占有を取得した。しかし、上告人はその直…