一 債務者の占有を解き執行吏の保管に付する旨の仮処分執行として、執行吏が目的物件を所持するに至つても、執行債務者が目的物件に対する占有を侵奪されたことにはならない。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合、執行債務者が換価金に対する占有を侵奪されたことにはならない。
一 執行吏保管の仮処分執行と占有侵奪。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合と占有侵奪。
民法200条1項,民訴法758条2項
判旨
仮処分執行により執行吏の保管下に置かれた目的物やその換価金について、債務者は依然として占有権を有しており、執行債権者が執行吏から当該換価金を受領しても、占有を「奪われた」(民法200条1項)とはいえない。
問題の所在(論点)
仮処分の執行により目的物が執行吏の保管下に置かれ、その後に換価金が執行債権者に引き渡された場合に、執行債務者において民法200条1項の「占有ヲ奪ハレタルトキ」に該当するか。
規範
民法200条1項にいう占有の侵奪(「占有ヲ奪ハレタルトキ」)とは、占有者の意思に反してその占有を強制的に奪うことを指す。仮処分執行により目的物が執行吏の占有下に移された場合、執行吏は執行債務者のために所持するものであるから、債務者は依然として占有を失っておらず、また、執行債権者が執行吏からその換価金を受領する行為も、執行吏や債務者の占有を侵奪するものとは解されない。
重要事実
上告人を債務者とする処分禁止仮処分の執行により、上告人が占有する伐倒木が執行吏の保管に付された。その後、執行吏は換価命令に基づき当該伐倒木を換価し、売得金を供託した。被上告人(債権者)の申請により仮処分が解除された際、執行吏は誤って供託金(換価金)を被上告人に交付し、被上告人はこれを受領した。上告人は、被上告人に対し占有侵奪を理由とする占有回収及び損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
まず、仮処分執行により目的物が執行吏の保管に移っても、執行吏は執行債務者のために所持する者である。したがって、債務者である上告人は目的物の占有を失っておらず、当然に「奪われた」ともいえない。次に、執行吏が保管する換価金を執行債権者である被上告人が受領した点についても、仮にそれが債権者の故意・過失に基づくものであっても、執行吏や債務者の換価金に対する占有を強制的に奪ったものとは評価できない。よって、上告人は「占有を奪われたものというをえない」と判断される。
結論
上告人は占有を侵奪されたとはいえないため、占有回収及び損害賠償を求める本訴請求は認められない。上告棄却。
実務上の射程
占有訴権の「侵奪」要件における執行手続の法的性格を明らかにした事例である。仮処分や差押えなど、執行吏を介した公権的な占有移転は「侵奪」に当たらないこと、及び執行吏による誤交付も「侵奪」を構成しないことを論証する際に用いる。また、債権侵害による不法行為の成否についても、執行吏に資力があり還付請求権の行使が可能な限り、損害が発生しないとする実務上の指針も示唆している。
事件番号: 昭和54(オ)616 / 裁判年月日: 昭和57年3月30日 / 結論: その他
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