強制執行によつて物の占有を解かれた場合には、右執行行為が著しく違法性を帯び、外観上も私人の私力行使と同視しできるようなときを除いて、占有回収の訴によつてその物の返還を請求することは許されない。
強制執行によつて物の占有を解かれた者と占有回収の訴の許否。
民法200条
判旨
国家の執行機関による強制執行によって占有を解かれた場合、当該執行行為が著しく違法で、外観上私人の私力行使と同視しうる例外的な場合を除き、占有回収の訴えを提起することはできない。
問題の所在(論点)
執行機関の強制執行により占有を解かれた場合に、民法200条1項にいう「占有を侵奪された」といえるか。特に、執行の前提となる実体上の権利が欠如していた場合の適否が問題となる。
規範
占有回収の訴え(民法200条)は、他人の私力により占有を奪われた場合にその返還を認める制度である。したがって、権限ある執行機関の執行行為により占有を解かれた場合には、原則として同訴えを提起できない。ただし、例外として、当該執行行為が著しく違法性を帯び、もはや社会的に公認された執行と認めるに堪えない場合、すなわち外観上も私人の私力行使と同視しうるような場合に限って、占有回収の訴えが許容される。
重要事実
賃貸人である被上告会社は、賃料不払を理由とする和解条項に基づき執行文の付与を受け、執行吏に委任して賃借人である上告人に対し本件室の明渡しを求める強制執行を完了させた。しかし、実際には上告人に賃料不払の事実はなく、強制執行の前提となる実体法上の要件を欠いていた。そのため、上告人は占有を侵奪されたとして占有回収の訴えを提起した。
あてはめ
本件における明渡しの強制執行は、和解調書に基づき執行文の付与を受けた執行吏によって行われており、外観上は適法な公権力の行使としての形式を備えている。実際には賃料不払の事実がなく実体法上の根拠を欠いていたとしても、そのことのみをもって、当該執行が「社会的に公認された執行と認めるに堪えない」ほど著しく違法であり、私人の私力行使と同視しうるものとはいえない。したがって、本件の執行行為は占有侵奪には該当しないと評価される。
結論
強制執行による占有の喪失は原則として占有侵奪に当たらず、本件の執行も例外的な著しい違法性を帯びるものとは認められないため、占有回収の訴えは認められない。
実務上の射程
強制執行が介在する場合の占有回収の訴えの可否についてのリーディングケースである。答案上は、執行に実体上の瑕疵があるにすぎない場合は民法200条の対象外であることを明記し、執行停止等の執行法上の救済手段を検討すべきことを示唆する際に有用である。
事件番号: 昭和33(オ)763 / 裁判年月日: 昭和35年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制執行により建物の占有を取得した者が、その直後に占有を侵奪された場合、占有回収の訴え(民法200条1項)によってその回復を求めることができる。 第1 事案の概要:被上告人は、昭和28年10月12日、執行力ある和解調書に基づく明渡しの強制執行により、本件三室の占有を取得した。しかし、上告人はその直…
事件番号: 昭和32(オ)346 / 裁判年月日: 昭和36年6月6日 / 結論: 棄却
一 債務者の占有を解き執行吏の保管に付する旨の仮処分執行として、執行吏が目的物件を所持するに至つても、執行債務者が目的物件に対する占有を侵奪されたことにはならない。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合、執行債務者が換価金に対する占有を侵奪されたことにはなら…