賃貸人の債務不履行となる家屋明渡の強制執行により住居を失つた賃借人が、これを他に入手するため、地代家賃統制令に違反する権利金および家賃を支出した場合、その支出が当時の社会情勢からすれば一家の住居を入手するため真にやむをえないものと認められるときは、右支出は賃貸人の債務不履行に基づく損害というべきである。
統制違反の権利金および家賃の支出が債務不履行に基づく損害とされた事例。
民法416条,地代家賃統制令3条、12条の2
判旨
賃貸人の債務不履行により住居を失った賃借人が、代替住居確保のために支払った権利金や統制額超過の賃料は、それが真にやむを得ない支出であれば、債務不履行と相当因果関係にある損害として認められる。
問題の所在(論点)
賃貸人の不法な強制執行という債務不履行により、賃借人が支出した「統制額を超える賃料」や「権利金」が、債務不履行と相当因果関係のある損害として認められるか。特に、当該支出が法令(地代家賃統制令)の禁止に抵触する場合であっても損害賠償の対象となるかが問題となる。
規範
債務不履行に基づく損害賠償の範囲については、債務不履行によって通常生ずべき損害、または特別の事情によって生じた損害のうち予見可能性があったものが含まれる(民法416条)。不法な強制執行等の債務不履行により居住の場を奪われた場合、当時の社会情勢に照らし、代替住居を確保するために支出せざるを得なかった費用は、たとえそれが公法上の統制額を超えるものであっても、当該債務不履行と相当因果関係のある損害と解するのが相当である。
重要事実
賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告会社)から賃借していた室について、賃貸人による不法な強制執行を受けて住居を失った。被上告人は、自己および家族の住居を確保するため、他から住居を借りる際に権利金および地代家賃統制令の制限額を超える賃料を支払った。当時の社会情勢では、当該程度の金額を支払わなければ家族の住居となる家屋を入手できない状況であった。
あてはめ
本件において、被上告人が支出した権利金および超過賃料は、不法な強制執行によって住居を失った結果、代替住居を得るために「真にやむをえずして支出した金員」であると認められる。当時の社会情勢下では、これらを支払わなければ住居の入手が困難であったという事実がある以上、この支出は上告会社の債務不履行によって生じた不可避的な損失といえる。したがって、たとえ当該支出が地代家賃統制令に違反する側面があったとしても、上告会社との関係においては、債務不履行により支出せざるを得なかったものとして相当因果関係が肯定される。
結論
被上告人が支払った権利金および統制額超過の賃料について、上告会社の債務不履行との間に相当因果関係を認め、その損害賠償義務を肯定した原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、損害賠償における相当因果関係の判断に際し、被害者が支出を余儀なくされた当時の社会的・経済的背景を考慮することを明示したものである。特に、公法上の規制がある場合でも、被害者が損害回避のために支出を避けられない状況であれば、その実支出額を基礎とした賠償が認められ得るという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和45(オ)315 / 裁判年月日: 昭和45年6月18日 / 結論: 棄却
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきである。
事件番号: 昭和33(オ)763 / 裁判年月日: 昭和35年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制執行により建物の占有を取得した者が、その直後に占有を侵奪された場合、占有回収の訴え(民法200条1項)によってその回復を求めることができる。 第1 事案の概要:被上告人は、昭和28年10月12日、執行力ある和解調書に基づく明渡しの強制執行により、本件三室の占有を取得した。しかし、上告人はその直…
事件番号: 昭和35(オ)1168 / 裁判年月日: 昭和36年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有者が主張する賃借権(本権)の成否が所有者によって争われている場合、占有者は民法188条による権利の推定を援用して賃貸借契約の立証責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:上告人(占有者)は、被上告人(所有者)の先代から昭和20年頃に本件土地を賃借したと主張し、自己に正当な権限があるとして…