占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきである。
占有における所有の意思の有無の判断基準
民法162条,民法186条
判旨
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実(権原)によって外形的客観的に定められるべきであり、賃貸借が法律上無効であっても、これに基づいて開始された占有は他主占有となる。
問題の所在(論点)
取得時効の要件である「所有の意思」(民法162条、186条1項)の判断基準、および占有取得の原因となった賃貸借契約が無効である場合に「所有の意思」の推定が覆されるか。
規範
民法162条の「所有の意思」の有無は、占有者の内心的意思ではなく、占有取得の原因たる事実(権原)の性質によって外形的客観的に決定される。また、占有取得の原因となった賃貸借契約が公法上の制限(農地調整法等)により法律上の効力を生じない場合であっても、借主として占有を開始したという客観的事実がある以上、その占有は他主占有と解すべきである。
重要事実
上告人は、昭和21年に被上告人から土地を賃借してその占有を開始した。しかし、当該賃貸借契約は、当時の農地調整法5条所定の認可を受けていなかったため、法律上の効力を生じていなかった。上告人は、当該土地を長期間占有したことを根拠に、取得時効の成立を主張した。
事件番号: 昭和45(オ)357 / 裁判年月日: 昭和45年10月29日 / 結論: 棄却
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて客観的に定められるべきものであるから、所有権譲受を内容とする交換契約に基づき開始した占有は、所有の意思をもつてする占有である。
あてはめ
上告人の占有は、被上告人との賃貸借契約に基づき開始されたものである。この事実は、権原の性質上、他人の所有権を前提とするものであり、外形的客観的にみて他主占有にあたる。たとえ農地調整法違反により当該契約が無効であったとしても、借主として占有を開始したという外形的客観的事実に変わりはなく、民法186条1項による所有の意思の推定は覆される。また、上告人が民法185条所定の「新たな権原」または「自己に占有させた者に対する所有の意思の表示」による占有性質の変更を主張立証していない以上、自主占有への転換も認められない。
結論
上告人の占有は他主占有であり、占有性質の変更も認められないため、時効取得は成立しない。上告棄却。
実務上の射程
「権原の性質による客観的判断」という実務上確立された基準を示した重要判例である。答案では、186条1項の推定に対し、賃貸借や寄託などの他主占有権原を提示して推定を覆す(他主占有権原の立証)文脈で活用する。契約の有効・無効を問わない点は、不当利得や不法占拠との関係でも重要となる。
事件番号: 昭和37(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和39年11月17日 / 結論: 棄却
旧河川法(明治二九年法律第一七一号)第一八条の許可に基づく占用権者が長期にわたり占用許可の更新手続をすることなく放置し、占用許可に基づく使用収益権をすでに放棄していると認められるなど原判決の事実関係では、右占用権者は、同条に基づく占用権を有しないと解すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)425 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権の取得時効の要件である「所有の意思」の有無は、占有取得の原因となった権原の性質により客観的に決定される。他人の留守番として土地を使用する権原は、その性質上、所有の意思を認め得ない他主占有にあたる。 第1 事案の概要:占有者Dは、被上告人から本件土地の「留守番」として使用することを許され、これ…
事件番号: 昭和45(オ)265 / 裁判年月日: 昭和47年9月8日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、前記相続人はその相…