共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、前記相続人はその相続のときから相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したものというべきである。
共同相続人の一人が相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したと認められた事例
民法162条,民法185条,民法186条1項,民法187条1項
判旨
共同相続人の一人が、相続財産を単独相続したと信じて占有・収益を独占し、他の相続人が異議を述べないなどの事情がある場合、その相続人は占有開始時から自主占有を取得する。
問題の所在(論点)
共同相続人の一人による占有が、民法162条の取得時効の要件である「所有の意思をもってする占有(自主占有)」にあたるか、またその判断基準が問題となる。
規範
共同相続人の一人が他の相続人の持分を含めて占有する場合、原則としてその占有は権限の性質上「他主占有」である。しかし、当該相続人が単独相続したと信じて疑わず、相続開始から現実に占有・管理・使用を専行して収益を独占し、公租公課も自己名義で負担し、かつ他の相続人がこれに関心を持たず異議も述べなかったような特段の事情がある場合には、相続開始時から所有の意思(自主占有)が認められる。
重要事実
訴外Dの死亡により本件土地の共同相続が開始した。共同相続人の一人であるEは、当時の家督相続制度の影響もあり、自身が単独相続したものと誤信した。Eは単独所有者として土地を占有・使用し、収益を独占し、地租も自己名義で納入し続けた。その後、Eは長男である被上告人に本件土地を贈与し、被上告人も同様に占有を継続した。一方で、他の共同相続人らは相続の事実を知らず、Eらが単独占有・収益していることに全く関心を寄せず、異議も述べなかった。
事件番号: 平成6(オ)1905 / 裁判年月日: 平成7年12月15日 / 結論: その他
土地の登記簿上の所有名義人甲の弟である乙が右土地を継続して占有した場合に、甲の家が本家、乙の家が分家という関係にあり、乙が経済的に苦しい生活をしていたため甲から援助を受けたこともあり、乙は家族と共に居住するための建物を建築、移築、増築して右土地を使用し、甲はこれに異議を述べたことがなかったなど判示の事実関係の下において…
あてはめ
本件では、Eは単独相続したと誤信して占有を開始しており、客観的にも管理・収益を独占し、公租公課も負担していた。また、他の相続人は長年にわたり関心を示さず異議も述べていない。これらの事実は、Eが本件土地を自己の独占的支配下に置く意思、すなわち所有の意思を有していたことを裏付ける。したがって、Eの占有は開始時から自主占有であり、これを承継した被上告人の占有も同様に解される。
結論
Eの占有開始時から自主占有が認められるため、取得時効の要件を充足し、被上告人は本件土地の所有権を取得する。
実務上の射程
共同相続人間における取得時効の成否が争われる事案において、他主占有から自主占有への転換(民法185条)を論じる際のリーディングケースである。答案では、単なる主観的な思い込みだけでなく、収益の独占や公租公課の負担、他の相続人の不干渉といった「外形的客観的事実」を拾って「所有の意思」を基礎付ける必要がある。
事件番号: 昭和34(オ)425 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権の取得時効の要件である「所有の意思」の有無は、占有取得の原因となった権原の性質により客観的に決定される。他人の留守番として土地を使用する権原は、その性質上、所有の意思を認め得ない他主占有にあたる。 第1 事案の概要:占有者Dは、被上告人から本件土地の「留守番」として使用することを許され、これ…
事件番号: 平成11(受)223 / 裁判年月日: 平成13年7月10日 / 結論: 破棄差戻
被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の1人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。
事件番号: 平成6(オ)440 / 裁判年月日: 平成7年12月5日 / 結論: 棄却
相続財産である不動産について単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産…
事件番号: 昭和57(オ)548 / 裁判年月日: 昭和58年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有してい…