土地の登記簿上の所有名義人甲の弟である乙が右土地を継続して占有した場合に、甲の家が本家、乙の家が分家という関係にあり、乙が経済的に苦しい生活をしていたため甲から援助を受けたこともあり、乙は家族と共に居住するための建物を建築、移築、増築して右土地を使用し、甲はこれに異議を述べたことがなかったなど判示の事実関係の下においては、乙が、甲に対して右土地の所有権移転登記手続を求めず、右土地に賦課される固定資産税を負担しなかったことをもって、外形的客観的にみて乙が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情として十分であるということはできない。
登記簿上の所有名義人に対して所有権移転登記手続を求めないなどの土地占有者の態度が他主占有と解される事情として十分であるとはいえないとされた事例
民法162条,民法186条1項
判旨
民法186条1項により占有者の自主占有は推定されるため、所有の意思を否定するには他主占有事情を立証する必要がある。登記未了や固定資産税の未払は直ちに他主占有事情とはならず、当事者の人的関係や占有状況を総合考慮して判断すべきである。
問題の所在(論点)
取得時効の要件である「所有の意思」(民法162条)の有無に関し、長期間の登記未了や固定資産税の非負担が、自主占有の推定を覆す「他主占有事情」として決定的な意味を持つか。
規範
民法186条1項により占有者は所有の意思があるものと推定される。所有の意思は内心ではなく、権原の性質や占有に関する事情により外形的客観的に定められる。したがって、①性質上所有の意思のない権原(賃貸借等)に基づく占有取得の事実、または、②真の所有者であれば通常はとらない態度や、所有者として当然とるべき行動に出なかった事実等(他主占有事情)が証明されない限り、所有の意思は否定されない。
重要事実
事件番号: 昭和45(オ)265 / 裁判年月日: 昭和47年9月8日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、前記相続人はその相…
D(上告人らの父・夫)は、兄Eから本件土地を譲り受けた(交換契約)と認識して、昭和30年から建物を建築して居住を開始し、後に上告人らが占有を承継した。占有期間中、Dらは土地の登記を取得せず、固定資産税も支払っていなかった。一方で、Dらは複数回にわたり建物の増改築を繰り返しており、所有名義人であるEやその承継人Fから異議を述べられたことはなかった。D家とE家は分家・本家の関係にあり、経済的援助を受けるなど親密な親族関係にあった。
あてはめ
原審は、交換契約の成立が認められないことを理由に所有の意思を否定したが、これは内心の意思を重視するものであり誤りである。次に、登記未了や固定資産税の非負担について検討するに、前者は悪意を推認させるに留まり、後者も納税義務者が登記名義人である以上(地方税法343条)、直ちに所有者として異常な態度とはいえない。本件では、Dが建物を建築し、親族であるEらも異議なくこれを認めていたという外形的客観的事実がある。親族間の人的関係を考慮すれば、登記や税負担の欠如をもって他主占有事情として十分とはいえず、自主占有の推定は覆されない。
結論
登記未了や固定資産税の不負担という事実のみをもって直ちに所有の意思を否定することはできず、本件における他主占有事情の認定は不十分である。よって、時効取得の成否についてさらに審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
自主占有の推定(186条1項)が強力であることを確認した重要判例である。特に親族間など特殊な人間関係がある場合、本来「所有者ならとるべき行動(登記・納税)」を欠いていても、直ちに他主占有とはならない。答案上は、まず推定が働くことを明記し、相手方から反論として提出される「登記や税金の欠如」を、本判例の枠組み(外形的客観的評価)を用いて再反論する形で活用する。
事件番号: 平成7(オ)1203 / 裁判年月日: 平成12年1月27日 / 結論: その他
一 渉外的な法律関係において、ある法律問題(本問題)を解決するために不可欠の前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題の準拠法は、法廷地である我が国の国際私法により定めるべきである。 二 渉外親子関係の成立の判断は、まず嫡出親子関係の成立についてその準拠法を適用し、嫡出親子関係が否定さ…
事件番号: 昭和57(オ)548 / 裁判年月日: 昭和58年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有してい…
事件番号: 平成6(オ)440 / 裁判年月日: 平成7年12月5日 / 結論: 棄却
相続財産である不動産について単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産…
事件番号: 平成7(オ)228 / 裁判年月日: 平成8年11月12日 / 結論: 破棄自判
一 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。 二 甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、そ…