一 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。 二 甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、その相続人である乙の妻子丙らが、乙が生前に甲から右土地建物の贈与を受けてこれを自己が相続したものと信じて、その登記済証を所持し、固定資産税を納付しつつ、管理使用を専行し、賃借人から賃料を取り立てて生活費に費消しており、甲及びその相続人らは、丙らが右のような態様で右土地建物の事実的支配をしていることを認識しながら、異議を述べていないなど判示の事実関係があるときは、丙らが、右土地建物が甲の遺産として記載されている相続税の申告書類の写しを受け取りながら格別の対応をせず、乙の死亡から約一五年経過した後に初めて右土地建物につき所有権移転登記手続を求めたという事実があるとしても、丙らの右土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解するのが相当であり、丙らについて取得時効が成立する。
一 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合における所有の意思の立証責任 二 他主占有者の相続人について独自の占有に基づく取得時効の成立が認められた事例
民法162条,民法185条,民法186条1項,民法187条1項,民法896条
判旨
他主占有者の相続人が独自の占有による取得時効の成立を主張する場合、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものであることを当該相続人自ら証明すべきである。本件のように、被相続人からの贈与を信じて固定資産税を納付し、管理収益を専行していた等の事情があれば、外形的客観的にみて独自の所有の意思が認められ、自主占有への転換が肯定される。
問題の所在(論点)
他主占有者の相続人が、相続により承継した占有について、民法185条の「新たな権原」によらずに、独自の占有開始をもって自主占有への転換(民法162条)を主張するための要件および立証責任。
規範
1. 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効を主張する場合、民法186条1項の推定は及ばず、当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきである。 2. 「所有の意思」を否定する事情(真の所有者であればとらない態度等)の判定に際し、登記名義人への移転登記請求の欠如や固定資産税負担の不申出があったとしても、人的関係等に照らし異常な態度といえない場合は、直ちに所有の意思を否定する事情とはならない。
事件番号: 昭和57(オ)548 / 裁判年月日: 昭和58年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有してい…
重要事実
土地建物の所有者Eの五男Fは、管理委任に基づき本件不動産を占有していた(他主占有)。Fの死亡後、相続人である上告人らが占有を承継したが、上告人らは「Fが生前にEから贈与を受けた」と信じ、約20年間にわたり登記済証を所持して固定資産税を全額納付し、賃料を生活費に充てるなど管理使用を専行した。一方で、上告人らは長年移転登記を求めず、E死亡時の相続税修正申告に本件不動産が含まれていた際も異議を述べなかった。
あてはめ
1. 上告人らは、Fの死亡により占有を承継しただけでなく、贈与があったと信じて新たに事実的支配を開始したといえる。 2. 上告人らは、登記済証の所持、継続的な固定資産税の納付、賃料の収受・費消を行っており、これらは所有者として通常の振る舞いである。また、Eの他の相続人らも長年異議を述べておらず、一部は贈与を認める承認書を作成している。 3. 長年登記を求めなかった点や修正申告への不対応は、親族間の人的関係に照らせば所有者として異常な態度とはいえず、自主占有を否定する根拠にはならない。したがって、外形的客観的にみて独自の所有の意思が認められる。
結論
上告人らによる独自の占有開始時(昭和32年)から20年の経過により、取得時効が成立する。したがって、上告人らの請求を認容すべきである。
実務上の射程
他主占有者の相続人が「独自の占有」を主張する場合の立証責任を、時効主張者側に課した重要判例である。答案上は、相続による占有の承継(他主占有の継続)と、独自の占有開始による自主占有への転換を区別して論じる際に活用する。特に、所有者らしい外形的客観的事実(公租公課の負担、管理収益の独占)を具体的に拾い、登記の欠如等のマイナス要素を人的関係から中和する論法が実務・試験共に有用である。
事件番号: 平成7(オ)1203 / 裁判年月日: 平成12年1月27日 / 結論: その他
一 渉外的な法律関係において、ある法律問題(本問題)を解決するために不可欠の前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題の準拠法は、法廷地である我が国の国際私法により定めるべきである。 二 渉外親子関係の成立の判断は、まず嫡出親子関係の成立についてその準拠法を適用し、嫡出親子関係が否定さ…
事件番号: 昭和45(オ)265 / 裁判年月日: 昭和47年9月8日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、前記相続人はその相…
事件番号: 平成6(オ)1905 / 裁判年月日: 平成7年12月15日 / 結論: その他
土地の登記簿上の所有名義人甲の弟である乙が右土地を継続して占有した場合に、甲の家が本家、乙の家が分家という関係にあり、乙が経済的に苦しい生活をしていたため甲から援助を受けたこともあり、乙は家族と共に居住するための建物を建築、移築、増築して右土地を使用し、甲はこれに異議を述べたことがなかったなど判示の事実関係の下において…
事件番号: 平成11(受)223 / 裁判年月日: 平成13年7月10日 / 結論: 破棄差戻
被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の1人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。