被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の1人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。
被相続人の占有により取得時効が完成した場合において共同相続人の1人が取得時効を援用することができる限度
民法145条
判旨
被相続人の占有により取得時効が完成した場合、共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ時効を援用できる。遺産分割協議等の特段の事情がない限り、単独での全所有権の取得は認められない。
問題の所在(論点)
被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、共同相続人の一人は、他の相続人の同意や遺産分割協議がない状態でも、不動産全部について時効を援用することができるか。民法145条の「時効の援用」の範囲が問題となる。
規範
時効の完成により利益を受ける者は、自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができる。したがって、相続によって時効援用権を承継した場合、各共同相続人は自己の法定相続分の限度でのみ援用をなしうる。
重要事実
亡Dは、昭和35年から昭和55年までの20年間、本件不動産を占有し続けた。Dの死後、共同相続人の一人である被上告人が、Dの占有により完成した取得時効を援用し、登記名義人である上告人(Dの弟)に対し、不動産全部の所有権移転登記を求めて提訴した。なお、被上告人以外にも妻Eや他の子ら複数の共同相続人が存在した。
事件番号: 昭和45(オ)265 / 裁判年月日: 昭和47年9月8日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかつた等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、前記相続人はその相…
あてはめ
時効援用権は、相続によって各共同相続人に分割されて承継される性質のものである。本件において、Dの死亡により相続が開始しており、法定相続人は被上告人を含む4名である。遺産分割協議が成立したなどの特段の事情がない限り、被上告人が直接受けるべき利益は自己の法定相続分に限定される。ゆえに、被上告人が単独で不動産全部の時効を援用することは、自己の相続分を超える部分については認められない。
結論
被上告人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用できる。遺産分割協議等の存否を審理せずに全部認容した原判決には法令の解釈誤りがあるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
取得時効完成後に占有者が死亡した場合の援用権の帰属に関するリーディングケース。答案上は、共同相続人による援用が「不可分な行使」を要するか「分割して行使可能か」という文脈で、各人が自己の持分について個別に行使できる根拠として用いる。
事件番号: 平成6(オ)440 / 裁判年月日: 平成7年12月5日 / 結論: 棄却
相続財産である不動産について単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産…
事件番号: 平成7(オ)1203 / 裁判年月日: 平成12年1月27日 / 結論: その他
一 渉外的な法律関係において、ある法律問題(本問題)を解決するために不可欠の前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題の準拠法は、法廷地である我が国の国際私法により定めるべきである。 二 渉外親子関係の成立の判断は、まず嫡出親子関係の成立についてその準拠法を適用し、嫡出親子関係が否定さ…
事件番号: 昭和33(オ)517 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
不動産の買主が、その売主の相続人に対し、売買を原因として、当該不動産について所有権移転登記を求める訴訟は、その相続人が数人いるときでも、必要的共同訴訟ではない。
事件番号: 平成7(オ)228 / 裁判年月日: 平成8年11月12日 / 結論: 破棄自判
一 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。 二 甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、そ…