甲会社がレストラン営業を開始するにつき従業員乙を支配人格とし、同丙をコック長として両名に一任し、外一一名の従業員とともに営業に従事させ、営業遂行に必要な限りにおいて継続的にその店舗を専用させていた、との事実関係のもとにおいて、右乙、丙ら一三名の従業員をもつて甲会社の占有補助者であるとしながら、乙、丙らが甲会社に対し退職届を提出することにより爾後みずから本件店舗を占有する旨を表明した場合につき、乙、丙らによる右店舗の占有侵奪を肯定するためには、甲会社が他の従業員により右店舗の営業を継続しようとするのを乙、丙らにおいて実力で防止する等占有秩序が力によつて破壊されたと目すべき事情を必要とするとの見解を前提にし、右事情の認められないことを理由として、乙、丙らによる占有侵奪を否定したのは、民法二〇〇条の解釈適用を誤つたものである。
占有補助者による占有の侵奪を否定した判断に民法二〇〇条違背の違法があるとされた事例
民法200条
判旨
占有補助者が占有者に対し、以後自ら占有する旨を表明して所持を継続した場合、占有者はその意思に基づかずに所持を失ったものとして、民法200条の「占有を奪われたとき」に該当する。
問題の所在(論点)
専ら占有者の従属的地位にある「占有補助者」が、占有者に対し自ら占有する旨を表明して所持を継続した場合、民法200条の「占有を奪われたとき(占有侵奪)」に該当するか。
規範
占有補助者は、占有者の従属的地位にあり、その所持は占有者の補助にすぎず、独立の所持を有しない。したがって、占有補助者が自己のためにする意思をもって所持を開始した時点において、占有者は意思に基づかずに所持を失ったといえる。この場合、実力による占有秩序の破壊等の特段の事情がなくとも、民法200条にいう「占有を奪われたとき(占有侵奪)」に該当し、占有回収の訴えが認められる。
重要事実
大阪に本店を置く上告会社は、レストラン店舗の営業にあたり、従業員Eを支配人、Fをコック長として営業を一任し、他の従業員らと共に店舗を継続的に専用させていた。その後、E・Fらは上告会社に対し退職届を提出し、今後は占有補助者としてではなく、自ら店舗を占有する旨を表明して店舗の所持を継続した。これに対し、上告会社は占有回収の訴えを提起した。
あてはめ
本件において、E・Fらは上告会社の従業員として従属的地位にあり、独立の所持を持たない占有補助者にすぎなかった。このような占有補助者が、退職届の提出と共に自ら占有する意思を表明したことは、その時点から自己のためにする意思をもって店舗の所持を取得・継続したことを意味する。反面、上告会社は、当該意思表明の時点で、自らの意思に基づかずに店舗の所持を喪失したといえる。原審のように「実力で営業を阻止する等の占有秩序の破壊」を要件とする必要はなく、意思に反する所持の移転がある以上、占有侵奪が認められると解される。
結論
E・Fらによる店舗の所持は占有侵奪にあたり、上告会社による占有回収の訴えは認められる。したがって、これを否定した原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
占有補助者と占有代理人の区別を意識して論述する際に有用である。補助者が「独立の所持」を有しないことを前提に、意思表明のみで「奪われた」と評価できるとする点で、占有補助者の法的性質を鮮明にしている。答案上は、相手方が「占有補助者」にあたることを認定した上で、本規範を適用して侵奪の有無を検討する。
事件番号: 平成6(オ)1998 / 裁判年月日: 平成10年3月10日 / 結論: 破棄自判
甲が、宗教法人乙の代表者(住職)として寺院建物の所持を開始した後に乙を包括する宗教団体から僧籍はく奪の処分である擯斥処分を受け、乙から右建物の明渡しを求める訴訟を提起されたが、右処分の効力を争うとともにこれに応訴し、右建物の管理を続けていたなど判示の事実関係の下においては、甲が個人のためにも右建物を所持していたものと認…
事件番号: 昭和32(オ)346 / 裁判年月日: 昭和36年6月6日 / 結論: 棄却
一 債務者の占有を解き執行吏の保管に付する旨の仮処分執行として、執行吏が目的物件を所持するに至つても、執行債務者が目的物件に対する占有を侵奪されたことにはならない。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合、執行債務者が換価金に対する占有を侵奪されたことにはなら…