甲が、宗教法人乙の代表者(住職)として寺院の土地建物の所持を開始した後に乙を包括する宗教団体から僧籍はく奪の処分である擯斥処分を受けたが、乙から提起された訴訟において右処分の効力を争うとともに右土地建物の管理を続け、乙との間の右建物の撤去についての話合いの際にも、撤去後の土地の占有継続を主張していたなど判示の事実関係の下においては、甲が個人のためにも右土地建物を所持していたものと認めるべき特別の事情があるということができ、甲は、右土地建物の所持を奪ってこれを占有している乙に対して占有回収の訴えによりその返還を求めることができる。
宗教法人の代表者(住職)として寺院の土地建物の所持を開始した後に僧籍はく奪の処分を受けた者が右土地建物の所持を奪った右法人に対して占有回収の訴えによりその返還を求めることができるとされた事例
民法180条,民法181条,民法200条,宗教法人法18条
判旨
法人の代表者が機関として物を所持する場合でも、自己個人のためにも所持すると認めるべき「特別の事情」があるときは、個人としての占有が認められ、占有回収の訴えを提起できる。
問題の所在(論点)
法人の代表者が機関として占有していた物件について、代表者個人としての占有(民法200条)を認めるための要件、および本件においてその「特別の事情」が認められるか。
規範
法人の代表者が業務として行う所持は、原則として法人の直接占有であり、代表者個人は占有の訴え(民法198条以下)を提起できない。しかし、代表者が法人の機関として物を所持するにとどまらず、個人のためにもこれを所持すると認めるべき「特別の事情」がある場合には、代表者個人にも占有が認められる。
重要事実
宗教法人Bの代表役員であった上告人は、建物を空き家状態で管理していたが、包括宗教法人から僧籍剥奪(擯斥処分)を受けた。上告人は処分の無効を主張して新寺院の居住を続け、旧寺院についても門扉の施錠や草刈り、他者への居住提供を通じて直接・間接の所持を継続した。後任代表役員を自称するMとの交渉でも「建物撤去後も敷地を占有する」と主張。その後、Mが旧寺院の錠前を付け替え、上告人の立入りを禁止したため、上告人が占有回収の訴えを提起した。
あてはめ
上告人は、擯斥処分の効力を争い代表役員の地位を主張しつつ、旧寺院について自ら又は他人を介して継続的に所持・管理を行っていた。また、対立するMとの交渉過程においても、自己が所持していることを前提に、建物撤去後も敷地占有を継続する旨を明確に主張している。これらの事実に照らせば、上告人は「自己のためにも所持する意思」を有し、現にこれを所持していたといえるため、代表者個人としての占有を認めるべき「特別の事情」があるといえる。したがって、Mによる錠前の付け替え等は上告人の意思に反する占有の奪取に当たる。
結論
上告人は、本件土地建物の占有を侵奪されたものとして、被上告人に対し民法200条に基づきその返還を求めることができる。
実務上の射程
法人格と個人が混同しやすい中小企業や宗教団体の紛争において、機関としての占有と個人としての占有が併存しうることを認めた実務上重要な判例である。答案上は「自己のためにする意思(180条)」の有無を判断する際の具体的事実の評価として活用する。
事件番号: 昭和54(オ)616 / 裁判年月日: 昭和57年3月30日 / 結論: その他
甲会社がレストラン営業を開始するにつき従業員乙を支配人格とし、同丙をコック長として両名に一任し、外一一名の従業員とともに営業に従事させ、営業遂行に必要な限りにおいて継続的にその店舗を専用させていた、との事実関係のもとにおいて、右乙、丙ら一三名の従業員をもつて甲会社の占有補助者であるとしながら、乙、丙らが甲会社に対し退職…
事件番号: 昭和30(オ)241 / 裁判年月日: 昭和32年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法人の代表者がその業務として行う物の所持は法人自身の直接占有であり、代表者個人が法人とは別個に占有訴権を行使することはできない。 第1 事案の概要:法人の代表者が、法人の業務に関連して特定の物を所持していた。この状況下で、代表者個人が法人とは別個に占有の訴え(占有訴権)を提起できるかが争われた。原…
事件番号: 昭和29(オ)920 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 破棄差戻
株式会社の代表取締役が会社の代表者として土地を所持する場合には、右土地の直接占有者は会社自身であつて、代表者は、個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特段の事情がないかぎり、個人として占有者たる地位にあるものとはいえない。