株式会社の代表取締役が会社の代表者として土地を所持する場合には、右土地の直接占有者は会社自身であつて、代表者は、個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特段の事情がないかぎり、個人として占有者たる地位にあるものとはいえない。
会社の代表者として土地を所持する者の占有権の有無
民法180条,民法181条
判旨
法人の代表取締役が代表機関として土地を占有している場合、直接占有者は法人であって代表取締役個人ではない。代表取締役個人を相手方とする土地明渡請求が認められるためには、代表取締役が個人のためにも所持すると認めるべき特別の事情が必要である。
問題の所在(論点)
法人の代表取締役が、代表機関として目的物を占有している場合、当該代表取締役個人を相手方として土地明渡請求をなし得るか。物権的請求権の相手方となるべき「占有者」の意義が問題となる。
規範
法人の代表機関として目的物を所持する場合、その目的物の直接占有者は法人であり、当該個人は直接占有者ではない。ただし、当該個人が単に法人の機関として所持するに止まらず、個人自身のためにも所持すると認めるべき「特別の事情」がある場合には、当該個人も直接占有者の地位を有する。
重要事実
上告人は、訴外D造船株式会社の代表取締役である。上告人は、同社の代表機関として本件土地を占有・所持していた。原審は、上告人を「代理占有者としての直接占有者」であると判示し、上告人個人に対して本件土地の明渡しを命じた。しかし、上告人が個人のためにも土地を所持しているという特別の事情については判断していなかった。
あてはめ
本件において、上告人はD造船の代表取締役として本件土地を占有している。この関係において、本件土地の直接占有者は法人たるD造船であって、上告人はその機関として所持しているに過ぎない。したがって、上告人が個人として本件土地を占有していると評価するためには、法人の機関としての所持を超えて、上告人個人の利益等のために所持しているという「特別の事情」の存在が必要となる。原審はかかる特別の事情を認定することなく、上告人個人への明渡しを命じており、占有の帰属に関する判断を誤っている。
結論
代表取締役個人への明渡しを命じた原判決には審理不尽・理由不備の違法がある。特別の事情が確定されない限り、上告人個人は明渡請求の相手方とはならない。
実務上の射程
法人の占有と機関個人の占有を峻別する基準を示す。訴訟実務上、法人の占有を理由に代表者個人を被告とする場合は、占有補助者としての側面を超えた「個人的な占有(所持)」の立証が必要となる。特に、法人格否認の法理が適用されるような事案や、代表者が個人的に目的物を利用している実態がある場合に、この「特別の事情」を主張・立証する指針となる。
事件番号: 昭和36(オ)1068 / 裁判年月日: 昭和38年12月19日 / 結論: 棄却
特別事情による損害か否かは法律問題である。
事件番号: 昭和32(オ)911 / 裁判年月日: 昭和35年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人たる地位の承継に関する合意がない場合において、新所有者が賃借人に対して行う土地明渡請求が信義則に反し権利の濫用にあたるとはいえない。 第1 事案の概要:土地の所有者D(訴外)が、本件土地を被上告人(新所有者)に売り渡した。上告人(賃借人)は、Dが賃貸借上の権利義務を被上告人に承継させる意思を…
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…