判旨
賃貸人たる地位の承継に関する合意がない場合において、新所有者が賃借人に対して行う土地明渡請求が信義則に反し権利の濫用にあたるとはいえない。
問題の所在(論点)
土地の譲受人が賃貸人たる地位を承継する合意がない場合に、当該譲受人が賃借人に対して土地の明渡しを求めることが、信義則違反または権利の濫用に該当するか。
規範
賃貸借の目的物である土地の譲渡があった場合、旧所有者と新所有者の間で賃貸人たる地位を承継させる旨の合意(または当然の承継を基礎付ける合意)が認められない限り、原則として賃貸人の地位は移転しない。その上で、新所有者による権利行使が制限されるのは、当該請求が信義則(民法1条2項)に反し、または権利の濫用(同条3項)と認められる特段の事情がある場合に限られる。
重要事実
土地の所有者D(訴外)が、本件土地を被上告人(新所有者)に売り渡した。上告人(賃借人)は、Dが賃貸借上の権利義務を被上告人に承継させる意思を持ち、被上告人もこれを了承して買い受けたと主張した。しかし、原審は証拠上、そのような地位承継の合意があった事実は認められないと判断した。これに対し、上告人は被上告人の明渡請求が権利の濫用等にあたると主張して争った。
あてはめ
本件において、旧所有者Dから新所有者である被上告人に対し、賃貸人たる地位を承継させる意思表示や合意があった事実は認められない。また、上告人が主張するその他の諸事情を考慮しても、被上告人による本件明渡請求を信義則違反や権利の濫用と評価すべき特段の事情は認められない。したがって、適法な譲受人による所有権に基づく請求として正当化される。
結論
被上告人の本訴請求(土地明渡請求)は、信義則に反せず、権利の濫用にもあたらないため、請求は認容される。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)863 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃借権を譲渡し、譲受人が目的物を占有している場合、賃貸人は民法612条2項に基づき賃貸借契約を解除することができ、その請求が直ちに信義則(民法1条2項)に反するものとはいえない。 第1 事案の概要:上告人A1は、被上告人が所有する土地の賃借権を有していた。A1は、当該土…
対抗要件を備えていない賃借人に対し、土地の譲受人が明渡請求を行う際の抗弁(権利の濫用・信義則)の成否に関する判断の枠組みを示す。地位承継の合意がない限り、形式的な所有権行使は原則として維持されるという実務上の傾向を確認する事例である。
事件番号: 昭和32(オ)890 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の明渡請求が権利の乱用に該当するか否かは、具体的な事実関係に基づき、請求によって得られる利益と相手方の被る不利益等を比較衡量して判断されるべきであり、本件においては権利の乱用にはあたらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)らが占有する本件土地につき、被上告人(原告)が土地明渡を求めた事案であ…
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和34(オ)288 / 裁判年月日: 昭和35年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権の承継が認められない事実関係の下では、建物買取請求権を行使することはできない。また、特段の事情がない限り、土地明渡請求が権利濫用や信義則違反に当たるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本件土地上の建物を所有し、被上告人(原告)に対して建物買取請求権を主張した。しかし、原審におい…