判旨
法人の代表者がその業務として行う物の所持は法人自身の直接占有であり、代表者個人が法人とは別個に占有訴権を行使することはできない。
問題の所在(論点)
法人の代表者が業務上行う物の所持が、代表者個人の占有といえるか。法人の代表者が、法人とは別個に占有訴権(民法197条等)を行使しうる独立の占有主体となり得るか。
規範
法人の代表者は法人の機関であり、その代表者が業務上なす物の所持は法人そのものの直接占有となる。また、この場合の代表者は、民法197条後段(改正前197条、現行規定の趣旨も同様)にいう代理占有者にも該当しない。
重要事実
法人の代表者が、法人の業務に関連して特定の物を所持していた。この状況下で、代表者個人が法人とは別個に占有の訴え(占有訴権)を提起できるかが争われた。原審は、代表者の所持は法人の占有であるとして、代表者個人の占有訴権を否定し、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
法人の代表者は、法人の意思決定及び執行を担う不可分の機関である。代表者が業務として物を所持する行為は、法人の活動そのものであり、その占有の効果は法人に直接帰属する。したがって、当該所持は法人の直接占有となり、代表者が法人から占有を託された代理占有者(占有補助者に近い構成)として独立の占有権を有すると解する余地はない。
結論
法人の代表者は、法人とは別個に独立した占有訴権を有しない。
実務上の射程
法人の占有と機関の占有を峻別し、機関による所持が法人自体の直接占有であることを明確にした。答案上は、占有保持・回収の訴えの原告適格を検討する際、自然人が法人の機関として関与している場合には、その自然人個人ではなく法人を権利主体として特定すべき根拠として活用する。
事件番号: 昭和29(オ)920 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 破棄差戻
株式会社の代表取締役が会社の代表者として土地を所持する場合には、右土地の直接占有者は会社自身であつて、代表者は、個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特段の事情がないかぎり、個人として占有者たる地位にあるものとはいえない。
事件番号: 平成11(受)553 / 裁判年月日: 平成12年1月31日 / 結論: 破棄自判
甲が、宗教法人乙の代表者(住職)として寺院の土地建物の所持を開始した後に乙を包括する宗教団体から僧籍はく奪の処分である擯斥処分を受けたが、乙から提起された訴訟において右処分の効力を争うとともに右土地建物の管理を続け、乙との間の右建物の撤去についての話合いの際にも、撤去後の土地の占有継続を主張していたなど判示の事実関係の…
事件番号: 昭和29(オ)847 / 裁判年月日: 昭和30年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】寄託を委任したからといって、当然に寄託関係の終了に伴う返還を受ける権限まで付与されたとは解されず、代理権限なき者への返還は債務不履行を構成する。また、倉庫業者として当然払うべき注意義務を尽くさない限り、受取人に代理権限があると信じたことについて正当な理由があるとはいえない。 第1 事案の概要:債権…
事件番号: 昭和30(オ)700 / 裁判年月日: 昭和32年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人の土地を占有する者は、正当な権原を主張立証しない限り、故意過失の推定を受け不法占有の責を免れない。この理は、不法占有者の相続人が占有を継続し、かつその相続人が未成年者であっても同様に適用される。 第1 事案の概要:被上告人は、上告人らの亡父Dに対し、土地の占有に基づく金銭支払を請求した。Dの死…
事件番号: 昭和32(オ)366 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
家屋の所有者がその占有する権原のない場合に、右所有者を代表者とする会社がその家屋の全部を借受けて占有しているときは、右会社は、敷地の所有者に対し、敷地の不法占有による損害賠償責任を負う。