判旨
寄託を委任したからといって、当然に寄託関係の終了に伴う返還を受ける権限まで付与されたとは解されず、代理権限なき者への返還は債務不履行を構成する。また、倉庫業者として当然払うべき注意義務を尽くさない限り、受取人に代理権限があると信じたことについて正当な理由があるとはいえない。
問題の所在(論点)
寄託契約の締結を委任された代理人が、寄託物の返還を受ける権限まで有するか。また、倉庫業者が無権限者に返還した場合に、表見代理の「正当な理由」が認められるか、および過失相殺の可否が問題となる。
規範
1. 寄託の委任を受けた代理人が、当然に寄託物の返還を受ける権限(代理権)まで有するわけではない。 2. 民法110条等の表見代理の成立には、相手方が代理権があると信ずべき「正当の事由」が必要であるが、専門的業者については高度な注意義務が課される。 3. 債務不履行に基づく損害賠償額の算定において、債権者が代理人を通じて契約を締結した事実は、直ちに過失相殺の対象とはならない。
重要事実
債権者(被上告人)は、訴外会社に対する貸付の担保として、当該会社を代理人として倉庫業者(上告人)との間で寄託契約を締結し、寄託者名義を被上告人とした。その後、上告人は、被上告人の承諾なく、代理権のない当該訴外会社に対して寄託物を返還した。被上告人は、上告人に対し、寄託物返還債務の履行不能に基づく損害賠償を請求した。上告人は、商法504条・505条による返還の有効性や、表見代理の成立、過失相殺を主張して争った。
あてはめ
1. 代理権の範囲について、目的物の寄託を委任したからといって、寄託関係の終了を前提とする返還を受けることまで委任の範囲内に含まれるとは解されない。本件では代理関係が明示されており、返還権限の有無は厳格に判断される。 2. 正当な理由について、上告人は倉庫業者であり、受寄物の返還に際して業者として当然払うべき注意義務を尽くすべき立場にある。本件ではその注意義務を尽くしたとはいえず、無権限者を信じたことに正当な理由はない。 3. 過失相殺について、被上告人が訴外会社を代理人として契約した事実は、債務不履行や損害発生、損害額の算定に影響を与えるものではなく、過失相殺を認めるべき事情には当たらない。
結論
本件寄託物返還債務は上告人の責めに帰すべき事由により履行不能となったものであり、上告人は目的物の時価相当額の損害賠償義務を負う。
事件番号: 昭和27(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和29年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物の引渡義務の履行不能に基づく代替賠償(損害賠償)を請求する場合、その賠償額は目的物自体の価格により算定すべきであり、請負代金や税金相当額を当然に控除すべきではない。 第1 事案の概要:被上告人(注文者)は、上告人(請負人)に対し、製織委託契約(請負契約)に基づき製織品の引渡を請求した。しかし、目…
実務上の射程
契約締結の代理権と受領権限の区別を示す射程を持つ。特に倉庫業者のようなプロの保管者については、返還相手の権限確認において高度な注意義務が要求され、安易な表見代理の主張や過失相殺が認められないことを示す実務上重要な判例である。
事件番号: 昭和40(オ)879 / 裁判年月日: 昭和42年11月17日 / 結論: 棄却
寄託者が寄託物(本件自動車)の所有者でなく、当該寄託物はその真の所有者の手中に帰つたなどの原判決確定の事実関係の場合においては、受寄者の責に帰すべき事由により寄託者に対する寄託物返還義務が履行不能になつたとしても、寄託者は、寄託物の価格相当の損害を蒙つたものということはできないから、受寄者に対し寄託物である本件自動車の…