判旨
物の引渡義務の履行不能に基づく代替賠償(損害賠償)を請求する場合、その賠償額は目的物自体の価格により算定すべきであり、請負代金や税金相当額を当然に控除すべきではない。
問題の所在(論点)
履行不能による損害賠償額の算定において、目的物自体の価格から、債務者が債権者に対して有する反対債権(請負代金)や目的物に係る公法上の租税を控除すべきか。
規範
物の引渡に代わる賠償請求(代替賠償)における賠償額は、原則としてその目的物自体の価格によって算定される。この算定にあたり、債務者が債権者に対して有する反対債権(請負代金等)や、公法上の租税(織物消費税等)は、物自体の価格を構成する要素ではないため、当然にこれを控除した額を損害額とすべきではない。
重要事実
被上告人(注文者)は、上告人(請負人)に対し、製織委託契約(請負契約)に基づき製織品の引渡を請求した。しかし、目的物の引渡が不能となったため、これに代わる代替賠償(損害賠償)を求めた。これに対し上告人は、賠償額の算定にあたって未払の製織料金(請負代金)や織物消費税を控除すべきであると主張して争った。
あてはめ
本件は物の引渡に代わる賠償請求であるから、その賠償額は「専ら物自体の価格」に基づくべきである。上告人が主張する製織料金は、請負人が別途請求原因として主張すべき反対債権の問題に過ぎず、また織物消費税も物自体の価値とは別個の要素である。したがって、これらは「物自体の価格の算定に関連はない」といえるため、原審が目的物の価格全額を賠償額として認定し、これら諸費用を控除しなかった判断は正当である。
結論
代替賠償の算定において、請負料金や消費税額を目的物価格から控除する必要はない。したがって、控除を認めなかった原判決は維持される。
実務上の射程
事件番号: 昭和29(オ)847 / 裁判年月日: 昭和30年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】寄託を委任したからといって、当然に寄託関係の終了に伴う返還を受ける権限まで付与されたとは解されず、代理権限なき者への返還は債務不履行を構成する。また、倉庫業者として当然払うべき注意義務を尽くさない限り、受取人に代理権限があると信じたことについて正当な理由があるとはいえない。 第1 事案の概要:債権…
履行不能による賠償額算定の基準を示す。答案上、反対債権がある場合は、損害賠償額から当然に控除(損益相殺的処理)するのではなく、同時履行の抗弁や相殺の主張が必要であることを示唆する。同時履行の抗弁についても、主張がない限り裁判所は考慮しないという民事訴訟上の原則も併せて確認できる。
事件番号: 昭和30(オ)6 / 裁判年月日: 昭和32年6月7日 / 結論: 破棄差戻
履行に代わる損害賠償額を時価により算定するにあたり、裁判所が債務の履行期および不履行の時期を確定せず、漫然、訴提起後のある時期における時価を基礎とし、結局、右算定の基準とされた時期が、当該債務不履行と如何なる関係にあるか判文上不明の場合は理由不備の違法があるというべきである。