寄託者が寄託物(本件自動車)の所有者でなく、当該寄託物はその真の所有者の手中に帰つたなどの原判決確定の事実関係の場合においては、受寄者の責に帰すべき事由により寄託者に対する寄託物返還義務が履行不能になつたとしても、寄託者は、寄託物の価格相当の損害を蒙つたものということはできないから、受寄者に対し寄託物である本件自動車の返還に代る填補賠償(本件自動車の価格相当の損害賠償)を請求することはできない。
受寄者の寄託者に対する寄託物返還義務が受寄者の責に帰すべき事由によつて履行不能となつた場合において、寄託者の填補賠償が認められなかつた事例
商法617条
判旨
受寄者の帰責事由により寄託物返還義務が履行不能となった場合、原則として受寄者は寄託者に対し価格相当額を賠償すべきであるが、寄託者が所有権を有せず、かつ寄託物が真の所有者の手中に帰した場合には、寄託者に損害が生じたとはいえず賠償請求は認められない。
問題の所在(論点)
寄託者が寄託物の所有者ではなく、かつ、履行不能となった寄託物が既に真の所有者の占有に帰している場合において、寄託者は受寄者に対し、履行不能に基づく寄託物の価格相当額の損害賠償(債務不履行責任)を請求できるか。
規範
受寄者の責に帰すべき事由により寄託物返還義務が履行不能となった場合、受寄者は、寄託者が所有権を有するか否かを問わず、原則として寄託物の価格相当額を賠償すべき義務を負う。もっとも、損害賠償制度の趣旨は現実に生じた損害を補填することにあるため、寄託者が所有者ではなく、かつ当該寄託物が既に真の所有者の手中に帰した場合には、寄託者に価格相当の損害を認めることはできない。
重要事実
上告人(寄託者)は、被上告人(受寄者)との間で自動車の寄託契約を締結し、自動車を引き渡した。しかし、被上告人の責に帰すべき事由により当該自動車の返還義務が履行不能となった。なお、上告人は当該自動車の所有権を有しておらず、即時取得も認められなかった。また、当該自動車は既に真の所有者の手中に帰していた。上告人は、被上告人に対し、返還義務の履行不能に基づく填補賠償として自動車の価格相当額を請求した。
事件番号: 昭和29(オ)847 / 裁判年月日: 昭和30年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】寄託を委任したからといって、当然に寄託関係の終了に伴う返還を受ける権限まで付与されたとは解されず、代理権限なき者への返還は債務不履行を構成する。また、倉庫業者として当然払うべき注意義務を尽くさない限り、受取人に代理権限があると信じたことについて正当な理由があるとはいえない。 第1 事案の概要:債権…
あてはめ
本件において、上告人は当該自動車の所有者ではなく、即時取得も成立していない。また、寄託物である自動車は、既に真の所有者の手中に帰している。このような事実関係の下では、仮に被上告人の帰責事由により返還義務が履行不能になったとしても、上告人は自動車の価格相当額の経済的な損失を被ったとは評価できない。したがって、上告人に価格相当の損害の発生を認めることはできない。
結論
寄託者が所有権を有せず、かつ寄託物が既に真の所有者の占有に帰した場合には、寄託者は受寄者に対し、寄託物の価格相当額の損害賠償を請求する権利を有しない。
実務上の射程
本判決は、債務不履行に基づく填補賠償請求において、目的物の返還不能があったとしても、債権者に実質的な損害が生じていない特段の事情がある場合には、賠償請求を否定する基準を示したものである。答案上は、寄託契約の成立に所有権は不要であるが、賠償請求段階では損害の有無(実質的な不利益の有無)が厳格に判断されるという文脈で活用すべきである。
事件番号: 昭和32(オ)397 / 裁判年月日: 昭和33年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】受託者が自己の責に帰すべき事由により受託物の返還義務を履行不能とした場合、寄託者に対して損害賠償義務を負う。 第1 事案の概要:被上告人(寄託者)は、第三者との大豆売買契約において残代金の支払を受けられなかったため、引渡し未了の大豆を上告人(受託者・被告)に寄託した。その後、受託した上告人の責に帰…