仮登記担保権者が予約完結権を行使して目的不動産の引渡を受けるとともに、債務者との特約に基づき右不動産による旅館の営業権をその施設、器具ともども引渡を受けたなど判示事情のもとでは、債権者が目的不動産を換価して清算するまでこれを使用して旅館営業を継続しても右不動産に対する債務者の所有権を侵害するものではない。
仮登記担保と目的不動産による旅館営業
民法90条,民法200条,民法709条,不動産登記法2条,不動産登記法7条2項
判旨
仮登記担保権者が債務不履行に基づき予約完結権を行使し、清算手続の一環として不動産の占有及び営業権の引渡しを受けた場合、その占有及び収益は適法であり、設定者に対する不法行為(所有権・占有権侵害)は成立しない。
問題の所在(論点)
仮登記担保権者が、債務不履行後に予約完結権を行使し、清算手続の一環として目的不動産の引渡しを受けて収益した場合、設定者に対する不法行為(所有権・占有権侵害)が成立するか。
規範
仮登記担保契約の本旨は、目的不動産の取得自体ではなく、その金銭的価値の実現による債権の排他的満足にある。したがって、債務者が弁済期に履行しないときは、債権者は予約完結権の行使により、清算のための換価手続の一環として、目的不動産の引渡しを求めることができる。当事者の意思に基づき適法に引渡しが行われた場合、その後の占有・収益は、特段の事情のない限り、設定者の所有権や占有権を侵害するものではない。
重要事実
債務者(上告人)は債権者(被上告人)に対し、借入金の担保として不動産への代物弁済予約(仮登記担保)を締結し、不履行時には営業権等を引き渡す旨の承諾書を交付した。上告人が期限内に弁済しなかったため、被上告人は予約完結の意思表示を行い、本登記を経由。さらに被上告人は、建物の管理人に対し営業権の移転を告知した。管理人はこれに応じ、以後被上告人のために建物を占有し、収受した宿泊料を被上告人に交付した。上告人は、この占有及び収益が不法行為にあたるとして争った。
あてはめ
本件代物弁済予約は清算を伴う仮登記担保契約であり、債務不履行により被上告人は不動産の処分権能を取得した。被上告人はこれに基づき、上告人が事前に差し入れた承諾書の趣旨に従って管理人に対し営業権の引渡しを求め、管理人もこれを認めて占有を移転させている。このような占有移転は当事者の意思に基づく適法なものであり、清算目的の範囲内である。収受した利益は債務の弁済に充当・清算されるべき性質のものであり、直ちに上告人の所有権を侵害するものとはいえない。また、管理人が自発的に被上告人のために占有する旨を言明した以上、占有権の侵害も認められない。
結論
被上告人による不動産の占有及び収益は適法であり、上告人に対する所有権侵害および占有権侵害のいずれも成立しない。
実務上の射程
仮登記担保権者による実行手続中の占有・収益の適法性を肯定した事例である。答案上は、清算手続における債権者の権限(不動産引渡請求権)の根拠として、大法廷判決(最判昭49.10.23)を補完する形で活用できる。ただし、収受した利益は清算金に反映(債務充当)されるべきであることを忘れてはならない。
事件番号: 昭和29(オ)306 / 裁判年月日: 昭和29年11月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有回収の訴え(民法200条)が認められるためには、従前の占有者の事実的支配が完全に排除され、占有が侵奪者に全面的に移転したといえることが必要である。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間で係争地の支配を巡る争いがあった。上告人は、被上告人に対して占有回収の訴えを提起したが、原審(判決文からは詳…
事件番号: 昭和32(オ)346 / 裁判年月日: 昭和36年6月6日 / 結論: 棄却
一 債務者の占有を解き執行吏の保管に付する旨の仮処分執行として、執行吏が目的物件を所持するに至つても、執行債務者が目的物件に対する占有を侵奪されたことにはならない。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合、執行債務者が換価金に対する占有を侵奪されたことにはなら…