譲渡担保の設定者は、正当な権原なく目的物件を占有する者に対し、その返還を請求することができる。
譲渡担保の設定者と不法占有者に対する目的物件の返還請求権
民法206条,民法369条(譲渡担保)
判旨
譲渡担保設定者は、担保権者が換価処分を完結するまでは目的物の完全な所有権を回復し得る地位にあるため、特段の事情のない限り、第三者の不法占有に対して返還請求権を行使できる。
問題の所在(論点)
譲渡担保の設定により形式上の所有権が担保権者に移転している場合において、設定者は不法占有者に対して物件の返還請求を行うことができるか。設定者の残存する権利の性質が問題となる。
規範
譲渡担保における所有権移転の効力は、債権担保の目的を達するのに必要な範囲に限定される。担保権者の権能は、履行遅滞時に目的物を適正評価額で取得するか第三者に売却等して優先弁済に充てる換価処分権に留まる。他方、設定者は、換価処分が完結するまでは債務を弁済して完全な所有権を回復し得る地位を有している。したがって、不法占有者に対しては、特段の事情のない限り、設定者自ら返還請求をなし得る。
重要事実
譲渡担保の設定者である原告が、目的物件を正当な権原なく占有している被告に対し、物件の返還を求めて提訴した。被告側は、所有権は既に譲渡担保権者に移転しているため、設定者には返還請求権がない旨を主張して争った。
事件番号: 平成5(オ)486 / 裁判年月日: 平成9年7月17日 / 結論: 破棄自判
借地上の建物につき借地人から譲渡担保権の設定を受けた者が、建物の引渡しを受けて使用又は収益をする場合には、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと解するのが相当である。
あてはめ
本件において、目的物件は譲渡担保に供されているが、担保権者による換価処分は未だ完結していない。設定者は、被担保債務を弁済することで物件の完全な所有権を回復できる地位にあり、依然として実質的な所有権的利益を有しているといえる。他方、被告は正当な権原なく占有する不法占有者である。このような譲渡担保の趣旨及び効力に照らせば、設定者の権利行使を認めるのが相当であり、特段の事情も認められない。
結論
譲渡担保設定者は、不法占有者に対して目的物件の返還を請求することができる。
実務上の射程
不動産・動産譲渡担保の双方に共通する判例法理であり、設定者の法的地位を「所有権回復の可能性」から肯定した点に実務上の意義がある。答案では、物権的請求権の要件である「所有」の検討において、譲渡担保の効力が担保目的に限定されること(信託的譲渡説の修正)を論拠として提示する際に活用する。
事件番号: 昭和40(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和42年5月26日 / 結論: 棄却
甲が乙に対する債権者として、乙の丙に対する所有権に基づく土地明渡請求権を代位行使する場合にあつては、当該土地の所有権の帰属につき甲丙間に対抗問題を生ずることはない。
事件番号: 昭和42(オ)1279 / 裁判年月日: 昭和46年3月25日 / 結論: 破棄差戻
貸金債権担保のため債務者所有の不動産につき譲渡担保契約を締結し、債務者が弁済期に債務を弁済すれば、右不動産を債務者に返還するが、弁済をしないときは右不動産を債務の弁済に代えて確定的に債権者の所有に帰せしめるとの合意のもとに所有権移転登記が経由されている場合において、債務者が弁済期に債務の弁済をしないときは、債権者は、目…
事件番号: 昭和36(オ)1071 / 裁判年月日: 昭和37年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地譲渡担保において、譲渡担保権者から土地を取得した者に対し、借地人が建物登記による対抗力を具備していても、譲渡担保権者が賃借権を承認した事実がない限り、賃借権を対抗することはできない。 第1 事案の概要:Dは本件土地を株式会社E商店に譲渡(事案上、譲渡担保契約を基礎とする)し、所有権移転登記を完…
事件番号: 昭和25(オ)87 / 裁判年月日: 昭和26年4月27日 / 結論: 棄却
土地所有者である賃貸人がその承諾のない転貸借によつてこれを占有する転借人に対して直接土地の返還を請求するについては、賃貸借契約を解除しまたは賃借人の承諾を得るを要しない。