有体動産に対する占有権は、仮処分の執行として執行吏がこれを保管することによつて失われるものではないから、その動産の指図による占有移転は、仮処分債権者に対抗できないにとどまりその他のものに対する関係においては有効である。
仮処分の執行として執行吏の保管する有体動産に対しなされた指図による占有移転の効力。
民訴法566条,民法184条
判旨
仮処分執行により執行吏が占有する動産であっても、保管者である第三債務者は占有権を失わず、債務者が指図による占有移転を行い譲受人に代理占有を取得させることは可能である。この引渡は仮処分債権者には対抗できないが、その他の第三者に対しては有効な対抗要件となる。
問題の所在(論点)
占有移転禁止の仮処分が執行され、執行吏の占有下にある動産について、債務者が「指図による占有移転」の方法により譲受人に占有権を移転し、対抗要件を具備させることができるか。
規範
動産の占有移転禁止の仮処分執行がなされ、執行吏が債務者の占有を解いて第三債務者(保管者)に保管させた場合でも、直接の保管者である第三債務者は当該動産に対する占有権を喪失しない。したがって、債務者が保管者に対して以後譲受人のために占有すべき旨を命じ、譲受人がこれを承諾する「指図による占有移転」(民法184条)の方法により、譲受人は有効に代理占有を取得できる。この引渡の効力は、仮処分債権者との関係で対抗できないにとどまり、それ以外の第三者との関係では有効である。
重要事実
債務者Dが所有し、第三債務者E(通運会社)の倉庫に保管されていたジュラルミン屑に対し、Fの申請による「占有移転禁止の仮処分」が執行された。執行吏はDの占有を解き、自ら占有を取得した上で、占有移転禁止の条件付でEに保管させた。その後、Dは本件物件を被上告人に売却し、Eに対し以後は被上告人のために占有するよう命じ、被上告人がこれを承諾した(指図による占有移転)。上告人は、この物件について別途強制執行を受け占有していたが、被上告人が所有権に基づき引渡を求めたため、仮処分執行中の占有移転の有効性が争点となった。
あてはめ
本件では、執行吏が仮処分命令に基づきDの占有を解いた後も、保管を委託された第三債務者Eは依然として事実上の支配を継続しており、占有権を喪失していない。DがEに対し、以後は被上告人のために占有すべき旨を命じ、被上告人がこれを承諾したことにより、Dから被上告人へ代理占有が移転したと認められる。この占有移転は、仮処分の目的である債権者Fに対する関係では効力を主張できないが、仮処分債権者ではない上告人との関係においては、有効な対抗要件の具備として機能する。
結論
被上告人は指図による占有移転により適法に引渡を受けており、上告人に対して所有権および占有権の取得を主張できる。
実務上の射程
仮処分執行中の処分や占有移転が「相対的」な効力しか持たないことを確認した判例である。答案上では、動産の対抗要件具備の有無が問題となる場面で、目的物が執行中であっても、仮処分債権者以外の第三者に対しては指図による占有移転等の方法で有効に対抗要件を具備できる旨を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和32(オ)346 / 裁判年月日: 昭和36年6月6日 / 結論: 棄却
一 債務者の占有を解き執行吏の保管に付する旨の仮処分執行として、執行吏が目的物件を所持するに至つても、執行債務者が目的物件に対する占有を侵奪されたことにはならない。 二 執行吏が仮処分による保管物件の換価金を執行債権者の還付申請により誤つて執行債権者に交付した場合、執行債務者が換価金に対する占有を侵奪されたことにはなら…
事件番号: 昭和32(オ)880 / 裁判年月日: 昭和34年2月12日 / 結論: 棄却
一 不動産につき実質上所有権を有せず、登記簿上所有者として表示されているにすぎない者は、実体上の所有権を取得した者に対して、登記の欠缺を主張することはできない。 二 真正なる不動産の所有者は、所有権に基き、登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記を請求することができる。