判旨
強制執行の対象となる物件が債務者に属しない以上、債権者が当該物件を債務者の所有と信じ、かつそのように信じるにつき相当な理由があったとしても、第三者異議の訴えを排して強制執行を継続することはできない。
問題の所在(論点)
強制執行において、執行対象物が債務者の所有に属しない場合、債権者が当該物件を債務者の所有と信じ、かつそう信じるにつき相当な理由があったとしても、第三者異議の訴え等による執行の阻止を免れないか。いわゆる執行における善意取得的な保護が認められるかが問題となる。
規範
強制執行は債務者の財産に対して行われるべきものであり、執行対象物の所有権が債務者に属しない場合には、原則として執行をなし得ない。この理は、債権者が対象物件を債務者の所有であると過失なく信じていた(善意・無過失)としても、公信力が認められない動産・建物等の不動産執行においては変わるものではない。
重要事実
上告人(債権者)は、債務者Dに対する債務名義に基づき、本件建物に対して強制執行を申し立てた。しかし、原審によれば本件建物の所有権は未だかつてDに属したことがなく、第三者の所有であった。これに対し上告人は、本件建物をDの所有と信じたこと、およびそのように信じるに至った相当な事由があることを主張して、執行の正当性を争った。
あてはめ
本件建物の所有権は一貫してDに属していなかったことが原審により認定されている。強制執行は実体法上の権利関係を基礎とするものであるから、債務者に属しない財産への執行は違法となる。上告人が主張する「Dの所有と信じた事情」は、不法行為責任の有無等の判断には影響し得るものの、実体法上の所有権の帰属を左右するものではなく、また強制執行の手続において対象物件の帰属を債務者に擬制する法的根拠(公信力等)も存在しない。
結論
債権者の善意・無過失にかかわらず、債務者に属しない建物に対する強制執行は許されない。したがって、本件強制執行は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
民事執行法38条の第三者異議の訴えにおいて、被告(債権者)が「債務者の所有であると信じた」という抗弁は、実体法上の権利(即時取得等)が認められない限り通用しないことを示した。答案上は、執行の適法性が実体上の権利帰属に依拠することを論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)1056 / 裁判年月日: 昭和33年3月14日 / 結論: 棄却
甲所有の動産が乙の占有にある間に乙の債権者丙によつて仮差押がなされたとしても、丙は、甲から所有権を譲り受けた丁に対し、引渡の欠缺を主張する正当の利益を有しない。