甲所有の動産が乙の占有にある間に乙の債権者丙によつて仮差押がなされたとしても、丙は、甲から所有権を譲り受けた丁に対し、引渡の欠缺を主張する正当の利益を有しない。
民法第一七八条の第三者にあたらない一事例
民法178条
判旨
動産譲渡の対抗要件(民法178条)における「第三者」とは、引渡しの欠缺を主張するについて正当な利益を有する者をいう。債務者以外の第三者の所有物を誤って仮差押えした債権者は、当該物件の所有権移転につき、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有しない。
問題の所在(論点)
債務者以外の第三者の所有物を誤って差し押さえた債権者は、当該物件の所有権移転につき、民法178条の「第三者」として引渡しの欠缺を主張できるか。
規範
民法178条にいう「第三者」とは、単に事実上の利害関係を有する者ではなく、譲渡人から当該動産につき権利を取得し、または制限物権の設定を受けるなど、引渡しの欠缺を主張するについて法律上の正当な利益を有する者を指すものと解される。
重要事実
D株式会社から被上告人に対し、本件物件の所有権が譲渡された。一方、上告人はEに対する債権に基づき、Eが占有していた本件物件を仮差押えした。しかし、本件物件は差押え当時もDの所有であり、上告人の債務者であるEのものではなかった。そのため、上告人による仮差押えは目的物を誤ったものであった。上告人は、Dから被上告人への所有権移転について、引渡しがないため対抗できないと主張した。
あてはめ
上告人はEに対する債務を保全するために仮差押えを行っているが、本件物件の本来の所有者はDであり、被上告人はDから正当に譲受けている。上告人はDと被上告人間の譲渡関係において何ら権利を有するものではなく、債務者Eとは無関係な物件を誤って差し押さえたに過ぎない。したがって、上告人は当該譲渡の対抗要件の不備を突いて自己の権利を優先させるべき法律上の地位になく、引渡しの欠缺を主張する「正当の利益」を有しないといえる。
結論
債務者以外の所有物を誤って差し押さえた債権者は、民法178条の「第三者」に該当せず、所有権移転につき引渡しの欠缺を主張できない。
実務上の射程
民法177条(不動産)の「第三者」の定義と同様の枠組みを動産譲渡にも適用した事例。差押債権者が「第三者」に含まれるためには、その差押えが有効(債務者の所有物に対するもの)であることを前提とする。答案上は、背信的悪意者以外の排除事由として「正当な利益の有無」を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和31(オ)221 / 裁判年月日: 昭和32年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強制執行の対象となる物件が債務者に属しない以上、債権者が当該物件を債務者の所有と信じ、かつそのように信じるにつき相当な理由があったとしても、第三者異議の訴えを排して強制執行を継続することはできない。 第1 事案の概要:上告人(債権者)は、債務者Dに対する債務名義に基づき、本件建物に対して強制執行を…