判旨
第二審の判決が熟した時期に、証拠調べに多大な日数を要する複雑な相殺の抗弁を提出することは、訴訟の完結を遅延させるものであり、重大な過失による時機に遅れた攻撃防御方法として却下される。
問題の所在(論点)
第二審の終盤で初めて提出された複雑な相殺の抗弁が、民事訴訟法上の「時機に遅れた攻撃防御方法」として却下されるべきか。
規範
民事訴訟法157条1項(旧139条)に基づき、攻撃防御方法が「時機に遅れた」ものとして却下されるためには、①当該提出が時機に遅れたこと、②それにより訴訟の完結を遅延させること、③提出者に故意または重大な過失が認められること、の各要件を満たす必要がある。特に証拠調べに多大な日数を要する複雑な主張を審理の終盤で提出する行為は、特段の事情がない限り却下対象となる。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)から賃料不払を理由に建物明渡し等を求められた訴訟において、第二審の口頭弁論(昭和30年7月18日)に至り、初めて修繕費償還請求権と賃料との相殺を主張した。この主張は、修繕箇所が散在しており損害額の算定が困難なものであったが、主張自体が不十分で証拠の申出もなされていなかった。
あてはめ
まず、本件相殺の主張は修繕箇所が散在し、その損害算定には多大な日数を要することが経験則上明らかであり、審理を著しく長引かせる(②)。次に、第二審において既に判決をなしうる程度に審理が熟した段階で、初めてこのような複雑な主張を行うことは、特段の事情がない限り、早期に提出しなかったことにつき重大な過失があるといえる(③)。また、本来であれば第一審や第二審の初期に提出すべき性格の主張であり、判決直前での提出は客観的に時機に遅れたものと解される(①)。
結論
本件相殺の主張は、時機に遅れた攻撃防御方法であり、かつ上告人に重大な過失が認められるため、却下される。原審の判断は相当である。
実務上の射程
相殺の抗弁のような、反対債権の存否につき別途複雑な審理を要する主張を、審理の最終段階で提出する際の「却下リスク」を示す典型例である。答案上は、主張の複雑性と提出時期の遅さを相関的に評価し、完結遅延の予見可能性から重大な過失を導く論理構成に用いる。
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