判旨
選挙管理執行の違法が広範囲にわたり、不正投票の総数も不明で選挙全体の自由公正が著しく害された場合には、当選人の得票数と無効票数を具体的に対比することなく、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とすべきである。
問題の所在(論点)
選挙管理執行に重大な違法があり、不正投票の具体的な数が不明である場合に、公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」があるとして選挙全部を無効にできるか。
規範
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」とは、選挙管理の違法が投票の一部に留まらず、選挙全体の自由公正を害し、かつ不正投票の数等が確定できず客観的な勝敗の逆転可能性を個別に判断できない場合であっても、選挙結果の正当性が失われた状態を含むと解する。
重要事実
町議会議員選挙において、特定の投票所の投票立会人全員及び受付係が、少なくとも34名の詐偽投票を故意に黙認した。さらに、投票用紙の管理執行が著しく厳正を欠いた結果、用紙の盗難や不正使用による過剰票が生じた疑いも否定できない状態であったが、その正確な不正数は確定できなかった。
あてはめ
本件では、投票立会人らによる詐偽投票の黙認という組織的・意図的な違法が存在し、管理執行の不備から生じた不正票の総数も確定できない。このような違法は一部の投票に関するものに留まらず、選挙全体の自由公正を根本から害するものである。したがって、個別の当選人の得票数と無効票数を対比して逆転の可能性を計算するまでもなく、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるといえる。
結論
本件選挙管理の違法は選挙全体の公正を疑わしめる重大なものであるから、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とした原判決は正当である。
実務上の射程
選挙無効訴訟において「異動を及ぼすおそれ」を論じる際、原則として得票数の差と違法票数を比較する(算術的判断)が、本判例のように管理執行の違法が著しく広範かつ不透明な場合には、具体的数値を度外視して選挙全体の公正性喪失を理由に無効を導く枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和32(オ)708 / 裁判年月日: 昭和32年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙手続に法令違反がある場合であっても、それが選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないときには、当該選挙は無効とはならない。投票箱の空虚確認漏れ等の手続上の瑕疵は、実質的に公正が担保されていれば選挙無効の原因を構成しない。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、複数の手続上の問題が指摘された。具体…
事件番号: 昭和31(オ)325 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】普通地方公共団体の選挙管理委員会委員長は、地方自治法に基づき、その権限に属する事務の一部として、委員会の書記等の吏員に対し訴訟代理権限を委任し(いわゆる指定代理人の選任)、訴訟行為を行わせることができる。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人である選挙管理委員会との訴訟において、原審で委員会の指定…
事件番号: 昭和33(オ)405 / 裁判年月日: 昭和33年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】補充選挙人名簿の調製手続に重大な違法があり同名簿が無効となる場合、たとえ基本選挙人名簿が有効であっても、その選挙区における選挙は全部無効となる。また、この違法は選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものとして、公職選挙法205条1項に基づき選挙無効の原因となる。 第1 事案の概要:町議会議員選挙にお…
事件番号: 昭和31(オ)687 / 裁判年月日: 昭和31年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙会における決定の効力は、開票の際に存在した事実上の投票状況を基礎として判断されるべきであり、事実認定に疑義がある場合には、証拠により確定された事実に従う。 第1 事案の概要:本件では、選挙会における決定の効力が争われた。具体的には、係争の投票4票が開票の際に存在したか否かが争点となり、上告人は…