判旨
賃貸借契約の解約申入れにつき、一棟の建物の一部についてのみ正当事由を認め、当該部分に限定して解約の効力を認めることは、事実関係に照らし相当である限り許容される。
問題の所在(論点)
一棟の建物を一括して賃貸借している場合に、その一部(階下部分)についてのみ解約申入れの正当事由を認め、部分的に賃貸借を終了させることができるか(解約申入れの可分性)。
規範
建物の一部を目的とする賃貸借において、借地借家法(旧借家法)に基づく解約申入れの正当事由の有無を判断する際、建物全体の構造や利用状況、賃貸人・賃借人双方の必要性等の諸事情を考慮し、一棟の建物のうち特定の部分についてのみ解約の効力を生じさせることが社会通念上相当と認められる場合には、部分的な解約が認められる。
重要事実
上告人は被上告人から一棟の建物(家屋)を賃借していたが、被上告人は当該建物について解約の申入れを行った。原審は、当該建物のうち階下の賃貸部分(D食堂として利用)については適当な広さの調理場を設けることが不可能ではない等の事実を認定し、階下部分については解約の正当事由があるが、階上部分については正当事由が生じないと判断した。上告人は、調理場のない飲食店営業を前提とした判断である等として、この部分的解約を不服として上告した。
あてはめ
本件では、賃借人が営むD食堂の奥の部分に調理場を設けることが物理的に不可能ではないことが認定されている。このような状況下では、建物全体を一体として返還させる必要はなく、利用実態や構造上の独立性(階上と階下の区分)を考慮すれば、階下部分に限定して解約の効力を認めることが合理的である。したがって、階下部分についてのみ正当事由を肯定し、階上部分については否定した原審の判断は、具体的な事実関係に基づいた妥当な範囲内のものであるといえる。
結論
本件建物の階下部分についてのみ解約申入れを有効とした原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
建物の「一部」についての正当事由および解約の可否が争点となる場合に引用できる。契約が不可分な一体物であると主張する賃借人に対し、構造上・利用上の独立性や代替可能性(本件では調理場設置の可能性)を根拠に、部分的な解約(または明渡し)を正当化する際のロジックとして活用可能である。
事件番号: 昭和28(オ)671 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】家屋が可分である限り、その一部についてのみ明渡しを命じることは適法であり、家屋全部の明渡しを求める請求には、特段の事情がない限り、当然にその一部の明渡しを求める趣旨が含まれる。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)に対し、本件家屋全部の明渡しを求め、予備的に階下全部の明渡しを請求し…