判旨
期間の定めのない建物賃貸借の存続中に、賃借人が賃貸人に対し、将来の特定の期日に建物を明け渡す旨を合意することは、借家法の強行規定に抵触せず有効である。
問題の所在(論点)
期間の定めのない建物賃貸借において、賃貸借期間の途中に締結された「将来の明渡合意」が、借家法(現借地借家法)の強行規定に反し無効となるか。また、当該合意に基づく明渡請求が権利濫用となるか。
規範
建物賃貸借契約の存続中に、賃借人が賃貸人との間の特約(合意)により、当該建物を特定の期日に明け渡すことを約束することは、借家法の強行法規に違反するものではなく、原則として有効である。また、当該合意に至る過程に特段の事情がない限り、右合意に基づく明渡請求が権利の濫用となることはない。
重要事実
上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間には、期間の定めのない建物賃貸借契約が存続していた。その後、両者の間で売買契約が成立した際、上告人は被上告人に対し、当該建物を一定の期間内に明け渡すことを約定した(明渡合意)。しかし、後に賃借人側が、この明渡合意は借家法の強行規定に反して無効である、あるいは合意に基づく明渡請求は権利の濫用であると主張して争った。
あてはめ
本件における明渡合意は、既存の賃貸借関係を前提としつつ、当事者間の合意によってその終了時期を確定させるものである。このような特約は、借家法が制限する「賃借人に不利な事前の合意」等には当たらず、強行法規に違反しない。また、本件の契約成立過程における諸事情(判決文からは詳細は不明だが、原審が確定した事実)に照らしても、右合意を無効とするような事情は認められず、合意に基づく請求を権利濫用と評価すべき事情も存在しない。
結論
本件明渡合意は有効であり、これに基づく建物の明渡請求は正当である。
実務上の射程
賃貸借契約の解約合意(合意解約)の有効性を裏付ける判例として活用できる。特に、更新拒絶や解約申し入れに必要な「正当事由」を潜脱する目的でない限り、事後の合意による終了は認められるという構成の根拠となる。答案上は、借地借家法の強行規定(現行法30条等)との抵触が問題となる場面で、当事者の自由な意思に基づく事後的な合意は制限されないことを示す際に引用すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)255 / 裁判年月日: 昭和30年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃貸人が賃貸借契約の解約申入れ等による終了を主張して明渡しを求める場合、賃貸後の諸事情を総合的に考慮し、明渡請求を認容することが相当であると判断される場合には、借地借家法上の正当事由が認められる。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)に対し、被上告人(賃貸人)が係争家屋の賃貸後の諸事情を理由と…