判旨
不動産の賃借人は、その賃借権を保全する必要があるときは、民法423条の債権者代位権に基づき、所有者である賃貸人の有する妨害排除請求権としての明渡請求権を代位行使することができる。また、親権者が子を代理してその所有地の明渡請求を代位行使することは、利益相反行為(民法826条)には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 不動産賃借人は、賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使できるか。2. 本件のような代位行使が民法826条の「利益が相反する行為」に該当するか。
規範
1. 賃借人は、自己の賃借権(使用収益請求権)を保全するため、賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権(建物収去土地明渡請求権等)を代位行使することができる。2. 親権者が子に代わって債権者代位権を行使する際、その結果が権利の帰属主体である子に利益をもたらし、かつ親権者の権利保全にも資する場合には、民法826条の利益相反行為には当たらない。
重要事実
本件土地(82坪)は母Dの所有であり、子である被上告人が昭和22年以来、Dから無償で借り受けて使用していた。一方、上告人は本件土地を賃借していたが、当該賃貸借契約は期間満了(一時使用目的)により昭和27年に終了した。しかし、上告人が土地を占有し続けたため、被上告人はDに対する使用収益請求権を保全するため、Dに代位して上告人に対し土地明渡請求を提起した。上告人は、Dが自ら請求しない以上、被上告人による代位行使は認められないと主張したほか、この代位行使がDと被上告人との間で利益相反行為に当たると主張して争った。
あてはめ
1. 被上告人は、所有者Dに対し本件土地の使用収益を請求する権利を有している。Dが占有者である上告人に対し所有権に基づく明渡請求権を行使しない以上、被上告人は自己の使用収益権を保全するため、Dに代位して本件明渡請求権を行使し得る。2. D(親権者)が本来有する明渡請求権を行使することは、Dにとっては自己の権利実現であり、被上告人(子)にとっては自己の使用収益権の保全に資するものである。したがって、両者の利害は一致しており、利益相反には当たらない。
結論
被上告人による債権者代位権の行使は認められる。また、本件代位行使は利益相反行為に該当せず、特別代理人の選任は不要である。
事件番号: 昭和29(オ)896 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者代位権(民法423条1項)を行使して第三者に対し建物の収去及び土地の明渡しを請求するためには、代位される債務者が当該第三者に対して返還請求権を有していることが必要である。第三者が債務者から正当に土地を賃借している場合、代位行使の前提となる債務者の権利が存在しないため、代位請求は認められない。…
実務上の射程
賃借権に基づく妨害排除の方法として、民法423条の転用事例(特定の請求権を保全するための代位)を認めた重要判例である。答案上は、対抗要件を備えていない賃借人が不法占有者に対抗する際の構成(代位行使)として活用する。また、親族法上の利益相反の判断において、外形的・客観的に判断する実務の立場を補強する材料としても利用可能である。
事件番号: 昭和30(オ)772 / 裁判年月日: 昭和31年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者が民法423条(当時)に基づき債権者代位権を行使する場合、第三債務者に対して直接自己への給付を求めることができる。 第1 事案の概要:債権者(上告人)が、債務者の第三債務者に対する権利を代位行使し、第三債務者に対して直接自己への支払または給付を求めた事案である(具体的な基礎事実は判決文からは…
事件番号: 昭和32(オ)164 / 裁判年月日: 昭和35年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が、一時使用目的の借地契約における解約特約に基づき、土地所有者に代位して不法占有者に対し建物の収去及び土地の明渡を請求することは適法である。 第1 事案の概要:土地所有者Dに対し、建物所有目的の賃借権を有する債権者(被上告人)が、債務者Dに代位して、土地の一部を占有する占有者(上告人)に対し…
事件番号: 昭和32(オ)163 / 裁判年月日: 昭和35年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法9条の一時使用目的の賃貸借において、地主が必要な時にいつでも解約できるとの特約が認められる場合、地主の債権者は、地主に代位して解約の申入れを行い、土地の明渡を請求することができる。 第1 事案の概要:本件土地の所有者Dは、第三者Eを介して、上告人(被告)との間で、本件土地の一部について一時使…
事件番号: 昭和28(オ)1025 / 裁判年月日: 昭和31年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者代位権(民法423条)の行使は債権保全の必要の限度内に限られる。土地賃貸借契約において現状変更を禁ずる約定がある場合、賃貸借成立時から存在する建物の収去や敷地の明渡しを求めることは債権保全の必要を越え、代位権の行使として許されない。 第1 事案の概要:土地の賃借人である上告人が、賃貸人に代位…