判旨
隠れた取立委任裏書がなされた手形が、支払拒絶後に被裏書人から裏書人に事実上返戻された場合、裏書人は当該裏書を抹消する権利を有し、手形の正当な所持人として権利を行使できる。
問題の所在(論点)
「隠れた取立委任裏書」がなされた手形について、支払拒絶後に銀行から裏書人に事実上返戻された場合、裏書人は当該裏書を抹消し、手形の正当な所持人として権利を行使できるか。手形法16条の解釈が問題となる。
規範
隠れた取立委任裏書の被裏書人から裏書人に対し、支払拒絶等の理由により手形が事実上返戻された場合には、裏書人は手形法16条2項に基づき当該裏書を抹消する権限を有し、抹消の前後を問わず手形の正当な所持人として認められる。
重要事実
上告人は手形を振り出し、被上告人はこれに「隠れた取立委任裏書」を施して銀行D支店に取立てを依頼した。しかし、当該手形は支払拒絶となり、銀行D支店から裏書人である被上告人に対して事実上返戻された。被上告人は、自身に施された裏書を抹消しないまま、あるいは抹消する権利を有する状態で、手形権利者として上告人に対し手形金の支払を求めた。
あてはめ
本件における裏書は、真実の権利移転を目的としない隠れた取立委任裏書である。手形が支払拒絶により受任者(銀行)から委任者(被上告人)に返戻されたという事実は、取立委任関係が実質的に終了し、権利が委任者に帰属していることを意味する。このような状況下では、裏書人は自己に続く裏書を抹消する実質的権限を有すると評価できる。したがって、返戻を受けた被上告人は、形式的な裏書の連続が遮断されているように見えても、実質的な権利者として、かつ裏書抹消権を有する正当な所持人といえる。
結論
被上告人は裏書を抹消する権利を有しており、手形の正当な所持人である。したがって、被上告人の請求を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
隠れた取立委任裏書における返戻の事案に直接妥当する。答案上は、手形法16条2項の「裏書の抹消」の効力や、取立委任裏書における権利帰属を論ずる際に、実質的権利者への返戻があれば当然に所持人資格が認められる根拠として引用すべき判例である。
事件番号: 昭和30(オ)207 / 裁判年月日: 昭和31年7月12日 / 結論: 棄却
甲から白地裏書により乙に、乙から記名裏書により丙に、順次交付された手形が甲に返還され、かつ乙のなした裏書が適法に抹消された後において、甲がさきの白地裏書の記載をそのまま利用して、右手形を丁に譲渡したときは、甲は丁に対し、裏書人としての手形上の責任を負担する。