一 隠れたる取立委任裏書により、手形上の権利は、裏書人から被裏書人へ移転するものと解すべきである。 二 手形所持人は、たとえ手形が裏書の連続を欠くため形式的資格を有しなくても、実質的権利を証明するときは、手形上の権利を行使することができる。
一 隠れたる取立委任裏書と手形上の権利移転の有無 二 裏書の連続を欠く手形上の権利行使の許否
手形法14条,手形法18条,手形法40条3項,手形法77条1項1号,手形法16条1項,手形法77条1項1号3号
判旨
隠れたる取立委任裏書の被裏書人から手形の返還を受けた裏書人は、裏書の抹消がなくても実質的権利を回復し、自らの実質的権利を証明することで、裏書の連続という形式的資格を欠いていても手形権利を行使できる。
問題の所在(論点)
裏書の連続という形式的資格を欠く手形所持人が、自ら実質的権利を有することを証明して手形上の権利を行使することができるか。また、隠れたる取立委任裏書の権利移転的効力はどう解すべきか。
規範
1. 隠れたる取立委任裏書であっても、手形行為の外形重視の原則から、手形上の権利は被裏書人に移転する。2. 裏書人が被裏書人から手形の返還を受けたときは、裏書の抹消の有無にかかわらず、実質的権利は裏書人に復帰する。3. 手形法上の形式的資格(裏書の連続)は、権利行使の便宜と債務者保護のための外観法理であり、絶対的な要件ではない。実質的権利者が自らの権利を証明した場合には、形式的資格を欠いていても適法に権利を行使できる。
重要事実
振出人(上告人)が振り出した約束手形について、被上告人が取得後、銀行に対し取立委任の目的で「隠れたる取立委任裏書」を行った。その後、不渡りとなったため、被上告人は銀行から手形の返還を受けて現に所持しているが、被上告人から銀行への裏書は抹消されずに残っていた。そのため、手形面面上は被上告人が最後ではなく、裏書の連続を欠く状態であった。被上告人は振出人に対し手形金の支払を求めた。
あてはめ
本件裏書は外形上通常の裏書である以上、権利は一旦銀行に移転するが、不渡り後の返還により実質的権利は被上告人に復帰しているといえる。被上告人から銀行への裏書が残存しているため、被上告人は裏書の連続という「資格」を欠くものの、資格とは実質的権利の証明を免除する効力にすぎない。被上告人が現に手形を所持し、実質的な権利者であることを証明している本件においては、振出人は資格の欠如を理由に履行を拒絶することはできないと解される。
結論
裏書の連続を欠く場合であっても、実質的権利者がその権利を証明したときは、手形金の請求は認められる。したがって、被上告人の請求を認容した原審の判断は正当である。
実務上の射程
裏書の連続による権利推定(手形法16条1項)を欠く所持人の救済法理として重要である。実務上、裏書の連続が途切れている場合でも、原因関係や返還の事実を立証することで権利行使が可能となる道を開いた。隠れたる取立委任裏書の権利移転効を肯定する通説的立場を裏付ける判例でもある。
事件番号: 昭和34(オ)1101 / 裁判年月日: 昭和36年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】隠れた取立委任裏書がなされた手形が支払拒絶により裏書人に返還された場合、当該裏書を抹消せずに第三者へ裏書譲渡しても、譲受人は実質的権利者として権利を行使できる。 第1 事案の概要:株式会社Dは、手形金額の取立のためE本店に対し白地裏書を行い、その後F銀行、G銀行へと順次裏書がなされたが、これらはい…