判旨
隠れたる取立委任裏書によって手形を交付した裏書人は、当該手形が返還された場合には、裏書の抹消により形式的資格を回復しなくとも、返還の事実を証明すれば手形上の権利を行使できる。
問題の所在(論点)
手形を譲渡裏書の形式で取立委任(隠れたる取立委任裏書)した裏書人が、手形の返還を受けた後、手形面上の裏書を抹消することなく権利行使をするために必要な要件が問題となる。
規範
隠れたる取立委任裏書により手形が交付され、後にこれが裏書人に返還された場合、裏書人は当該裏書を抹消して形式的資格(裏書の連続)を回復せずとも、取立委任の実態及び返還の事実という実質的権利関係を証明することによって、手形上の権利を行使することが認められる。
重要事実
被上告人(裏書人)は、本件手形を取立委任の目的で銀行(被裏書人)に対し、譲渡裏書の形式(隠れたる取立委任裏書)をもって交付した。銀行が支払呈示を行ったが支払拒絶されたため、銀行は被上告人に本件手形を返還した。被上告人は、手形面上の裏書を抹消しないまま、手形上の権利を行使した。
あてはめ
本件において、被上告人は銀行に対し取立委任を目的として裏書譲渡しており、実質的な権利は依然として被上告人に帰属している。また、支払拒絶後に銀行から手形の返還を受けたという事実が認定されている。この場合、手形面上の裏書が残っており形式的な裏書の連続が途切れているように見えても、実質的な権利関係の証明をもって権利行使を認めるのが相当である。
結論
被上告人は裏書を抹消して形式的資格を回復しなくとも、実質的権利関係を証明することで手形上の権利を行使できるため、本件の権利行使は正当である。
実務上の射程
隠れたる取立委任裏書の事案における権利行使の簡便化を認めた射程の広い判例である。答案上では、形式的資格(裏書の連続)の欠如を実質的資格の証明で補完できる例外的な場面として位置づける。
事件番号: 昭和29(オ)86 / 裁判年月日: 昭和31年2月7日 / 結論: 棄却
一 隠れたる取立委任裏書により、手形上の権利は、裏書人から被裏書人へ移転するものと解すべきである。 二 手形所持人は、たとえ手形が裏書の連続を欠くため形式的資格を有しなくても、実質的権利を証明するときは、手形上の権利を行使することができる。