判旨
隠れたる取立委任裏書がなされた手形の所持人が、被裏書人から手形の返還を受けて所持を回復した場合、当該裏書を抹消しなくても、権利者であることを証明すれば手形権利を行使できる。
問題の所在(論点)
手形法16条1項、13条等に関連し、隠れたる取立委任裏書がなされたまま手形を返還された裏書人が、裏書の抹消を経ずに手形上の権利を行使することができるか。
規範
裏書人が被裏書人より手形の返還を受けたときは、当該裏書を抹消するまでもなく、手形の正当な権利者であることを証明すれば、手形債務者に対して支払を請求することができる。また、裏書人はいつでも当該裏書を抹消しうる権限を有する。
重要事実
被上告人は、受取人から裏書譲渡を受けて本件手形を取得した後、銀行に対して「隠れたる取立委任裏書」を行い手形を交付した。銀行は満期日に手形を提示したが支払を拒絶されたため、被上告人に手形を返還し、被上告人がその所持を回復した。しかし、被上告人は銀行への裏書を抹消しないまま、手形債務者に対して支払を請求した。
あてはめ
本件において、被上告人は銀行から手形の返還を受けて現にこれを所持しており、実質的な権利関係において手形上の権利を行使すべき立場にある。裏書が残っている状態であっても、返還の事実等により自己が権利者であることを証明しうる以上、形式的な裏書の抹消という手続を待たずとも債務者への請求は認められる。被上告人はいつでも裏書を抹消できる地位にあることも、この結論を後押しする。
結論
被上告人は、隠れたる取立委任裏書を抹消することなく、手形債務者に対して手形金額の支払を請求することができる。
実務上の射程
裏書連続の不連続(手形法16条1項)が問題となる場面において、隠れたる取立委任の事案では、実質的な権利の帰属が立証されれば、抹消という形式的要件を厳格に求めないとする実務上の柔軟な処理を示す。答案上は、裏書連続の欠缺を補充する法理として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)768 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】隠れたる取立委任裏書によって手形を交付した裏書人は、当該手形が返還された場合には、裏書の抹消により形式的資格を回復しなくとも、返還の事実を証明すれば手形上の権利を行使できる。 第1 事案の概要:被上告人(裏書人)は、本件手形を取立委任の目的で銀行(被裏書人)に対し、譲渡裏書の形式(隠れたる取立委任…