一 隠れたる取立委任の場合、取立委任の合意は単に当事者間の人的抗弁事由に止まる。 二 形式的資格を欠く場合でも、手形所持人が債務者に対し実質的権利者であることを証明した場合は、債務者は支払を拒否することはできない。
一 隠れたる取立委任裏書の性質 二 形式的資格を欠く場合の手形権利者の権利行使方法
手形法16条,手形法18条
判旨
裏書人が被裏書人から手形の返還を受けた場合、裏書の抹消の有無にかかわらず裏書人は権利を再取得し、実質的権利を自ら立証すれば、裏書の連続という形式的資格を欠いても権利行使は可能である。
問題の所在(論点)
裏書人が被裏書人から手形の返還を受けた場合、裏書を抹消しなければ実質的権利を再取得できないか。また、裏書の連続を欠く実質的権利者が、自ら権利を証明して手形上の権利を行使することができるか。
規範
1. 裏書により手形権利が移転した後でも、裏書人が被裏書人から手形の返還を受けたときは、裏書の抹消の有無を問わず、裏書人は再び手形上の実質的権利を取得する。2. 実質的権利者が、裏書の不連続等により形式的資格を具備しない場合であっても、債務者に対し進んでその権利を証明するときは、その権利行使は適法であり、債務者は形式的資格の欠如を理由に支払を拒めない。
重要事実
Dは本件手形につき、E銀行に対し、隠れたる取立委任裏書を行った。その後、満期において支払が拒絶されたため、DはE銀行から本件手形の返還を受けたが、DからE銀行への裏書は抹消されずに残存していた。被上告人は、Dからさらに裏書譲渡を受け、本件手形を所持して振出人である上告人に対し手形金の支払を求めた。
あてはめ
DはE銀行から手形の返還を受けたことで、実質的権利を再取得しており、そのDから譲渡を受けた被上告人は本件手形の実質的権利者といえる。もっとも、DからE銀行への裏書が残存し、被上告人への裏書との間で裏書の連続が途切れているため、被上告人は形式的資格を有しない。しかし、被上告人が実質的権利者であることを自ら立証している本件においては、形式的資格の欠如は権利行使を妨げるものではない。したがって、振出人たる上告人は支払を拒めない。
結論
被上告人の請求は認められる。実質的権利者が自らその権利を証明したときは、裏書の連続を欠いていても、振出人に対し手形金の支払を求めることができる。
実務上の射程
裏書の連続(手形法16条1項)を欠く所持人の救済法理として重要である。裏書の抹消という形式的手続きを怠った場合でも、返還という事実により実質的権利が復帰することを認め、立証を条件に権利行使を肯定する。答案では、形式的資格を欠く所持人の権利行使の可否が問われた際、本判例を根拠に実質的権利の立証による権利行使を認めるべきである。
事件番号: 昭和32(オ)912 / 裁判年月日: 昭和35年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】隠れた取立委任裏書により手形を譲渡した裏書人が、後に手形の返還を受けた場合、裏書を抹消せず裏書の連続を欠く状態であっても、実質的権利を有することを証明すれば手形上の権利を行使できる。 第1 事案の概要:被上告人(裏書人)は、上告会社振出の約束手形をD銀行に対し、隠れた取立委任の目的で譲渡裏書(第三…