判旨
当事者の合意による相殺契約は、民法505条が規定する法定相殺の要件である自働債権の弁済期到来や、債務者の一致等を欠く場合であっても、有効に成立しその効力を生ずる。
問題の所在(論点)
当事者の合意による相殺契約において、自働債権の弁済期が未到来であることや、一部の当事者が債務者でないことが、当該相殺契約の成立および効力を妨げるか。
規範
民法505条に基づく法定相殺とは別に、当事者の自由な合意による相殺契約を締結することは私法上の契約自由の原則に基づき認められる。この場合、法定相殺の要件(債権の対立、弁済期の到来、同種の目的等)は必ずしも充足されている必要はなく、合意の内容に従った債権消滅の効力が生ずる。
重要事実
本件において代金債務の相殺が行われたが、それは当事者の合意による相殺契約であった。しかし、反対債権(自働債権)の弁済期が未到来であり、また、消滅させるべき15万円の債務について、上告人A1は債務者であったが、上告人A2は債務者ではなかった。このような法定相殺の要件を欠く状況下でなされた相殺契約の効力が争われた。
あてはめ
本件の相殺は、法定相殺の援用ではなく当事者間の合意による「相殺契約」である。契約である以上、公序良俗に反する等の特段の事情がない限り、当事者が任意にその内容を定めることができる。したがって、反対債権の弁済期が到来していないことや、債務者の一部に不一致があることは、合意の対象に含まれている限り、契約の成立や効力を否定する理由にはならないと評価される。
結論
相殺契約の成立および効力は妨げられない。したがって、上告人らの主張は理由がなく、本件相殺は有効である。
実務上の射程
事件番号: 昭和30(オ)362 / 裁判年月日: 昭和32年2月22日 / 結論: 棄却
催告および検索の抗弁権の附著する保証契約上の債権を自働債権とする相殺は、許されない。
法定相殺(505条)の要件を欠く場合であっても、合意があれば債権消滅が可能であることを示す。答案上は、相殺の抗弁において法定相殺の要件(弁済期等)が欠けている局面で、予備的に「相殺契約」の成否を論ずる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)860 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人が弁済の提供を継続しなくても、その後の賃料を供託することは有効であり、賃料不払による解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、昭和24年から26年の各年末に賃料を持参したが、賃貸人(上告人)はこれを受理せず返還した。さらに昭和…