判旨
借地法9条(現借地借家法25条)の「一時使用のために借地権を設定したことが明らかである場合」に該当するか否かは、建物の構造のみならず、賃貸借の期間、目的、土地返還時の建物無償譲渡の約定等、諸般の事情を総合して判断すべきである。また、建物無償譲渡の約定は賃借権設定の対価の一部としての性質を有し、独立した贈与契約ではないため、自由にこれを取り消すことはできない。
問題の所在(論点)
借地法9条(現借地借家法25条)所定の「一時使用」の該当性判断において、建物の構造以外の事情をどの程度考慮すべきか。また、建物の無償譲渡条項を賃貸借と切り離して取り消し可能な贈与契約と解することができるか。
規範
「一時使用のために借地権を設定したことが明らかである場合」といえるかは、賃貸借契約の動機、目的、期間、賃料の額、建物の種類・構造、さらには契約終了後の建物の処理に関する合意(無償譲渡の特約等)などの諸般の事情を総合考慮して決すべきである。また、建物等の無償譲渡が土地の使用収益の対価の一部として約定されている場合、それは賃貸借契約の内容をなす対価的条項であり、別個独立の贈与契約とは解されない。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、従前所有していた製パン工場を再建する目的で、工場設備を整えるまでの間の2年間という期間限定で本件土地を賃借人(上告人)に貸し付けた。契約には、期限が到来した際には地上建物を無償で賃貸人に譲渡して土地を明け渡す旨の特約が含まれていた。賃借人は、この無償譲渡契約は賃貸借とは別個の贈与契約であり、取り消し可能であると主張したほか、建物の構造等から一時使用目的の借地権には当たらないと主張して明け渡しを拒んだ。
あてはめ
本件では、賃貸人が将来の工場建設のために土地の返還を待っていたという明確な利用目的があり、期間も2年と短期間であった。建物無償譲渡の約束は、土地の使用収益をなさせることに対する対価の一部として、賃借権設定と密接不可分に合意されたものと認められる。このような契約の経緯や対価関係に照らせば、たとえ建物の構造が一定の堅固さを備えていたとしても、総合的には一時使用の目的で借地権が設定されたことが明らかであるといえる。したがって、普通借地権としての存続期間等の規定は適用されない。
結論
本件賃貸借は一時使用目的のものと認められ、また建物無償譲渡条項は賃貸借契約の対価の一部であって贈与として取り消すことはできない。上告棄却。
実務上の射程
借地借家法25条(旧法9条)の適用に関し、建物の堅固性という客観的状況だけでなく、利用目的や対価関係(無償譲渡特約等)を重視する実務上の判断枠組みを支える判例である。答案上は、期間の定めの有無や短さ、土地を明け渡さなければならない具体的必要性、権利金に代わる無償譲渡条項の存在などをあてはめの要素として活用すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)879 / 裁判年月日: 昭和35年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地および建物の賃貸借が、借地法(現借地借家法25条)および借家法(現借地借家法40条)にいう「一時使用」にあたるかは、賃貸借成立の経緯、使用目的、建物の規模構造、期間の定めおよびその理由等を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:土地および土蔵の賃貸借契約において、賃貸期間が短期に定め…
事件番号: 昭和30(オ)698 / 裁判年月日: 昭和32年11月15日 / 結論: 棄却
都市計画実施のために先代以来の営業場所から立退を求められた者が、附近の宅地を移転先に充てるため、地上に工場を所有する借地人において近くその明渡をなす約束であるとの地主の言を信じてこれを買い受けたところ、期限到来の後も明渡を受け得られず自らは立退を迫られた末、借地人を相手方とする土地明渡の調停事件において、右宅地の必要性…
事件番号: 昭和31(オ)952 / 裁判年月日: 昭和32年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地借家法の適用を排除する「一時使用目的の借地権」に該当するか否かは、契約期間の長短のみならず、土地の性格、賃貸借の目的、更新の経緯等の諸事情を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人Aは、鉄道用地(本件土地)を1年の約定で賃借した。期間経過後も継続使用を希望したため、被上告人は急ぎの…