都市計画実施のために先代以来の営業場所から立退を求められた者が、附近の宅地を移転先に充てるため、地上に工場を所有する借地人において近くその明渡をなす約束であるとの地主の言を信じてこれを買い受けたところ、期限到来の後も明渡を受け得られず自らは立退を迫られた末、借地人を相手方とする土地明渡の調停事件において、右宅地の必要性を明示して相手方を納得させた上、さしあたりの移転先として相手方所有の倉庫を借り受ける、右宅地を期間を七年と限つて改めて相手方に賃貸する旨の調停が成立した場合、右調停にもとづく土地の賃貸借は、一時使用のため借地権を設定したことの明らかな場合にあたるものと解すべきである。
調停にもとづく期間七年の土地の賃貸借が一時使用の賃貸借にあたるとされた一事例
借地法9条
判旨
賃貸借契約の成立経緯、期間の限定、土地使用の必要性等の諸事情に照らし、一時使用目的であることが明らかな場合には、地上に既に建物が存在していても借地法9条(現・借地借家法25条)の一時使用目的の借地権が成立する。
問題の所在(論点)
地上に既に堅固な建物(工場)が存在する場合において、新たに設定された借地権が「一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合」(借地法9条、現・借地借家法25条)に該当し、借地法の更新規定等の適用が排除されるか。
規範
借地法9条(現・借地借家法25条)にいう「一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合」に該当するか否かは、借地権設定の動機、目的、建物の種類、期間の限定、土地使用の必要性等を総合的に考慮して判断される。地上に既に建物が存在する場合であっても、右の諸事情から一時使用の合意が認められる限り、同条の適用は妨げられない。
重要事実
上告人は、前土地所有者との賃貸借に基づき本件土地上に工場を所有していた。その後、被上告人が自己の店舗の移転先として本件土地を買い受けたが、上告人が明渡しに応じなかったため、土地明渡調停が申し立てられた。調停において、被上告人が後に土地を使用する必要があることを上告人が了解し、期限が来たら無条件に明渡すことを合意した上で、改めて期間を7年間に限定して賃貸借契約を締結した。
事件番号: 昭和29(オ)346 / 裁判年月日: 昭和30年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法9条(現・借地借家法25条)の「一時使用」にあたるかは、賃貸借の目的、期間、地上建物の種類・構造、賃料の多寡等から客観的に判断される。本判決は、原審の認定した事実関係に基づき、本件土地の賃貸借が一時使用のためのものであると認めることが可能であると判示し、上告を棄却した。 第1 事案の概要:本…
あてはめ
本件では、被上告人が都市計画に伴う店舗移転先として本件土地を使用する必要性が高く、その事情を上告人も了解した上で、調停により7年という限定された期間を定めて契約が締結されている。このように、契約の成立が明渡しを巡る争いの中での譲歩としてなされ、かつ期間満了後の返還が強く期待されていたという経緯に照らせば、一時使用の目的は客観的に明らかである。地上に既に工場が存在していたとしても、この一時使用の合意の成立を妨げるものではないと解される。
結論
本件借地権の設定は、一時使用のためになされたことが明らかであり、借地法9条(現・借地借家法25条)が適用されるため、更新等に関する規定の適用はない。
実務上の射程
既存建物がある場合でも一時使用の成否を肯定した点に実務上の意義がある。答案では、契約締結の主観的動機だけでなく、客観的な期間設定、土地利用の必要性、合意に至るプロセス(本件では調停)といった事実を拾い、一時使用の「客観的な明白性」を論証する際の根拠として活用すべきである。
事件番号: 昭和29(オ)7 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】建物の売買に際し、買主が将来の一定期日までに建物を取り壊して運搬することを約し、その期日までの短期間に限り土地を賃貸した場合は、一時使用のための借地権(旧借地法9条)に該当する。このような一時使用の属性は契約の本質に関わるため、前提事実の認識に誤りがあれば民法95条の錯誤無効を招き得る。 第1 事…
事件番号: 昭和32(オ)569 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法(現行の借地借家法25条相当)にいう「建物所有を目的とする賃貸借」に該当しないか、あるいは「一時使用のための借地権」と認められる場合には、存続期間に関する法定の制限を受けず、約定期間の満了により賃貸借が終了する。 第1 事案の概要:本件賃貸借契約において、当事者は約定の期間満了による契約終了…
事件番号: 昭和34(オ)879 / 裁判年月日: 昭和35年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地および建物の賃貸借が、借地法(現借地借家法25条)および借家法(現借地借家法40条)にいう「一時使用」にあたるかは、賃貸借成立の経緯、使用目的、建物の規模構造、期間の定めおよびその理由等を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:土地および土蔵の賃貸借契約において、賃貸期間が短期に定め…
事件番号: 昭和39(オ)58 / 裁判年月日: 昭和39年7月3日 / 結論: 棄却
土地の賃貸借契約が当初甲市内に散在していた露天商を一時整理収容するために市役所等のあっせんにより期間を一年と限って成立し、その後借地人らの申出によって期間を限って契約が再三更新され、かつ、最終の契約においては、期間を一年三箇月とし賃貸人の許可なく組立式以外の建物の築造を禁止し、夜警以外の居住を禁止するなど原判決の認定の…