判旨
建物の売買に際し、買主が将来の一定期日までに建物を取り壊して運搬することを約し、その期日までの短期間に限り土地を賃貸した場合は、一時使用のための借地権(旧借地法9条)に該当する。このような一時使用の属性は契約の本質に関わるため、前提事実の認識に誤りがあれば民法95条の錯誤無効を招き得る。
問題の所在(論点)
建物の売買に伴い、取壊し・退去を前提として設定された短期間の土地賃貸借が、借地法(旧法)9条にいう「一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合」に該当するか。また、その属性の誤認が調停条項の効力(錯誤無効)に影響するか。
規範
建物所有を目的とする土地賃貸借であっても、契約の締結から終了までの期間が短期間に限定されており、かつ建物撤去・土地返還が契約の前提条件となっているなど、客観的な利用態様から一時的な利用であると明らかに認められる場合には、一時使用のための借地権(旧借地法9条、現行借地借家法25条)に該当する。
重要事実
上告人は、所有する建物(木造瓦葺平家建)をDに売却した際、Dとの間で、昭和25年12月31日までに建物を取り壊して運搬すること、およびそれまでの期間、建物の敷地(30坪)を月額1坪1.2円で賃貸することを合意した。その後、被上告人がDから建物および賃借人の地位を承継したが、土地の返還をめぐり争いとなった。
あてはめ
本件では、建物の売買契約において「将来の特定日までに建物を取り壊し、他の場所へ運搬すること」が明確な前提条件となっていた。また、賃貸借期間も右取払期日までの短期間に限定されており、賃料もそれに基づき設定されている。このような事情は、当事者が長期間の土地利用を予定しておらず、一時的な利用を目的としていたことを客観的に裏付けるものである。したがって、本件賃貸借は一時使用のための借地権にあたると解される。
結論
本件土地賃貸借は一時使用のための借地権に該当する。これを普通の建物所有目的の賃貸借と判断した原判決には理由齟齬があり、一時使用の属性に関する錯誤の有無を審理させるため、破棄・差し戻しを免れない。
事件番号: 昭和32(オ)569 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法(現行の借地借家法25条相当)にいう「建物所有を目的とする賃貸借」に該当しないか、あるいは「一時使用のための借地権」と認められる場合には、存続期間に関する法定の制限を受けず、約定期間の満了により賃貸借が終了する。 第1 事案の概要:本件賃貸借契約において、当事者は約定の期間満了による契約終了…
実務上の射程
借地借家法の適用を排除する「一時使用」の認定基準を示す。単なる期間の定めの有無だけでなく、建物取壊しの合意や利用目的、賃料設定などの客観的事情から「一時的であることの明瞭性」を判断する。答案では、強行規定の適用回避を正当化する事情(取壊し前提の売買等)を具体的事実から拾う際に活用する。
事件番号: 昭和39(オ)58 / 裁判年月日: 昭和39年7月3日 / 結論: 棄却
土地の賃貸借契約が当初甲市内に散在していた露天商を一時整理収容するために市役所等のあっせんにより期間を一年と限って成立し、その後借地人らの申出によって期間を限って契約が再三更新され、かつ、最終の契約においては、期間を一年三箇月とし賃貸人の許可なく組立式以外の建物の築造を禁止し、夜警以外の居住を禁止するなど原判決の認定の…
事件番号: 昭和30(オ)698 / 裁判年月日: 昭和32年11月15日 / 結論: 棄却
都市計画実施のために先代以来の営業場所から立退を求められた者が、附近の宅地を移転先に充てるため、地上に工場を所有する借地人において近くその明渡をなす約束であるとの地主の言を信じてこれを買い受けたところ、期限到来の後も明渡を受け得られず自らは立退を迫られた末、借地人を相手方とする土地明渡の調停事件において、右宅地の必要性…
事件番号: 昭和36(オ)220 / 裁判年月日: 昭和36年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮設建物所有を目的とした土地賃貸借について、その実態が一時使用目的であることが明らかな場合には、借地法の適用を受けない一時使用目的の借地権(借地借家法25条参照)として認められる。 第1 事案の概要:本件土地賃貸借は、仮設建物を所有することを目的として締結された。賃貸借期間の終了後、被上告人(賃貸…
事件番号: 昭和29(オ)346 / 裁判年月日: 昭和30年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法9条(現・借地借家法25条)の「一時使用」にあたるかは、賃貸借の目的、期間、地上建物の種類・構造、賃料の多寡等から客観的に判断される。本判決は、原審の認定した事実関係に基づき、本件土地の賃貸借が一時使用のためのものであると認めることが可能であると判示し、上告を棄却した。 第1 事案の概要:本…