判旨
極めて安価な売買価格であっても、競売を回避し連帯保証人への累及を防ぐ等の特段の事情がある場合には、当該売買契約の成立を認めることが経験則に反するとはいえない。
問題の所在(論点)
一般取引上の通念に照らして極めて異例な低額でなされた不動産売買について、その契約の成立を認める事実認定が、経験則ないし自由心証主義の限界に反しないか。
規範
売買価格が一般取引上の通念に照らして異例なほど低額(廉価)であったとしても、契約締結に至る経緯、当事者の置かれた社会的・経済的状況、及び売却の動機に関する「特段の事情」を考慮し、当該価格設定に合理性が認められる場合には、経験則に照らして契約の成立を肯定することができる。
重要事実
上告人は、D相互銀行に対する債務担保のため、本件建物に抵当権を設定していたが、競売開始決定がなされた。上告人は、競売により甚だしく廉価に売却されることを恐れ、自ら売却先を模索していた。一方、買主側(E)も上告人の債務の連帯保証人であり、競売の結果次第では自己に累が及ぶだけでなく、請負残代金の受領も困難になる立場にあった。このような状況下で、本件建物の売買契約が締結されたが、その売買価格は一般通念からすれば異例に低額なものであった。
あてはめ
本件において、上告人は競売による更なる廉価売却を阻止する必要性に迫られていた。また、相手方側も連帯保証人としての責任追及を回避し、自己の債権(請負残代金)を保全する必要があった。これらの「特段の事情」を考慮すれば、判示のような低価格で売買を行う動機と合理性が認められる。したがって、異例な価格であることをもって直ちに契約成立の認定を経験則違反と断じることはできない。
結論
本件売買契約の成立を認めた原審の判断は妥当であり、経験則に反するとの主張は採用できない。
事件番号: 昭和30(オ)972 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額と代物弁済の目的物の価格に開きがある場合でも、債権者が債務者の無知や窮迫に乗じて暴利を貪ったという事情がなく、債務者に弁済の目途があったといえる状況下では、当該代物弁済契約は公序良俗に反しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、債務の代物弁済として土地建物を譲渡する契約を締結した。当時…
実務上の射程
契約の成立や意思表示の真意(通謀虚偽表示の成否等)が争われる場面において、価格の著しい不均衡が即座に公序良俗違反や虚偽表示を推認させるものではなく、背後にある当事者の利害関係(窮状や債権保全の必要性)次第で有効性を維持し得ることを示す。民事訴訟上の事実認定の合理性を論じる際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和32(オ)582 / 裁判年月日: 昭和34年7月9日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払を無期限に延期する準消費貸借契約の成立を認定するには、取引上の通念に照らし、単なる同情を超えた特段の事情の存在が必要である。 第1 事案の概要:買主は、不動産売買代金20万円のうち、昭和20年中に10万円、21年6月末までに残り10万円を支払う約定であった。しかし、21年6月末までに…
事件番号: 昭和35(オ)1163 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の目的物である土地が第三者によって競落され、当該第三者のために所有権移転登記がなされた場合、売主の債務は特段の事情のない限り履行不能に陥る。 第1 事案の概要:上告人(売主)は、被上告人(買主)に対して本件土地を売り渡したが、その後、当該土地が訴外Dによって競落された。さらに、当該土地につ…
事件番号: 昭和30(オ)11 / 裁判年月日: 昭和35年9月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貨幣価値に著しい変動が生じた場合であっても、契約上の債権額が当然に修正されることはなく、当初の約定通りの金額による買戻権の行使は適法である。 第1 事案の概要:昭和17年9月に不動産の売買契約が成立し、買戻しの特約が付された。その後、昭和27年9月に被上告人が上告人に対して買戻しの意思表示を行った…
事件番号: 昭和31(オ)934 / 裁判年月日: 昭和32年10月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買代金の支払事実が認められる場合であっても、それが客観的な面積の過誤に基づく精算の結果に過ぎないときは、当然に隣接地の売買契約が成立したとは認められない。 第1 事案の概要:上告人は、宅地(イ)を360坪として、訴外人に対し60坪分(1坪あたり375円、計22,500円)の代金を支払った。しかし…