判旨
売買代金の支払を無期限に延期する準消費貸借契約の成立を認定するには、取引上の通念に照らし、単なる同情を超えた特段の事情の存在が必要である。
問題の所在(論点)
多額の売買残代金について、弁済期の定めをなくし支払を無期限に延期するような準消費貸借契約の成立を、単なる「同情」という理由のみで肯定できるか。
規範
売買代金の残債務につき、弁済期の定めなき(無期限の支払延期)準消費貸借契約(民法588条)の成立を認めるには、取引の通念に照らし、そのような異例の合意がなされるに足りる「特段の事情」を要する。
重要事実
買主は、不動産売買代金20万円のうち、昭和20年中に10万円、21年6月末までに残り10万円を支払う約定であった。しかし、21年6月末までに6万円を支払ったに留まり、残代金14万円を完済できなかった。買主は、経済情勢の激変により支払に窮した自分に対し、当時懇意であった売主が同情し、残代金について弁済期の定めのない準消費貸借契約が成立したと主張。原審は、売主の「同情」等を理由に買主の主張を認めたが、売主がこれを不服として上告した。
あてはめ
本件では、残代金が14万円という多額に上り、かつ当初の支払期限が明確に定められていた。また、売主側から代金支払の督促もなされていた。このような状況下で、売買代金の支払を無期限に延期するような契約は、極めて異例の合意である。原審は単に「売主が同情し懇願を容れた」とするが、これは取引の通念に照らして不自然であり、そのような合意を裏付けるに足りる客観的・具体的な「特段の事情」を判示していない。したがって、十分な理由を付さずに準消費貸借の成立を認めた原審の判断は、理由不備の違法がある。
結論
取引通念上、多額の債務につき弁済期の定めのない準消費貸借契約の成立を認めるには特段の事情を要する。原審はこれを欠くため破棄を免れない。
事件番号: 昭和30(オ)812 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】極めて安価な売買価格であっても、競売を回避し連帯保証人への累及を防ぐ等の特段の事情がある場合には、当該売買契約の成立を認めることが経験則に反するとはいえない。 第1 事案の概要:上告人は、D相互銀行に対する債務担保のため、本件建物に抵当権を設定していたが、競売開始決定がなされた。上告人は、競売によ…
実務上の射程
契約成立の事実認定において「経験則」や「取引通念」を用いる際の規範を示す。特に、当事者の一方に著しく不利(無期限延期等)な合意の成立を主張する場合、単なる主観的な動機(同情等)だけでなく、客観的な合理性を裏付ける事実(特段の事情)が必要とされることを強調する際に活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)972 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額と代物弁済の目的物の価格に開きがある場合でも、債権者が債務者の無知や窮迫に乗じて暴利を貪ったという事情がなく、債務者に弁済の目途があったといえる状況下では、当該代物弁済契約は公序良俗に反しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、債務の代物弁済として土地建物を譲渡する契約を締結した。当時…
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和28(オ)324 / 裁判年月日: 昭和30年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法580条2項に基づき、買戻しの期間を定めた場合には、後日合意によってこれを伸長することはできない。 第1 事案の概要:上告人は、買戻しの期間を定めた契約について、その後に当事者間の合意によって期間を伸長したと主張し、当該伸長後の期間内における買戻しの有効性を争った。これに対し、原審は買戻期間の…
事件番号: 昭和32(オ)612 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法94条2項の適用における善意・無過失の要否について、原審が認定した事実に基づき、相手方が善意かつ無過失であれば保護されることを前提に上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人が、被上告人に対し、何らかの権利関係(詳細は判決文からは不明)につき虚偽の表示や悪意の存在を主張して争った事案。原審は、…