判旨
不存在の法人を当事者とした無効な契約が存在しても、後に改めて個人間で締結された別個の契約の効力は妨げられない。また、本人が無効な契約等の事実を知りながらこれを承認した場合には、追認により有効となる(旧民法95条参照)。
問題の所在(論点)
不存在の法人を当事者とした無効な契約がある場合、その後に締結された別個の契約の効力に影響を及ぼすか。また、一連の契約の存在を知って承認した者に錯誤無効の主張が認められるか。
規範
1. 契約当事者が存在しない場合、その契約は効力を生じないが、後に真の当事者間で改めて締結された契約は、前者の無効に左右されない別個の契約として有効に成立する。 2. 錯誤による無効(現行法では取消し)が主張される場合であっても、本人が当該事実を認識した上で承認したときは、もはや錯誤による無効を主張することはできない。
重要事実
Bは当初、D合資会社との間で契約(一)を締結したが、実際にはD社は存在していなかった。その後、BはD社の不存在を知り、改めてE個人との間で契約(二)を締結した。さらに、北支から帰還したAは、これら一連の契約の事実を知った上で、これを承認した。上告人側は、契約(一)が無効である以上その後の契約も無効であることや、要素の錯誤があることを主張して争った。
あてはめ
契約(一)は当事者である会社が不存在である以上、当然に無効である。しかし、Bがその無効を知った上で改めてE個人と締結した契約(二)は、契約(一)とは全く別個の契約である。したがって、前者の無効が後者に承継されることはない。また、錯誤の主張については、Aが帰還後に契約の経緯を全て知った上で「承認」していることから、もはや要素の錯誤があるとは認められず、追認と同様の効果が生じているといえる。
結論
契約(二)および(三)は有効であり、Aによる錯誤無効の主張は認められない。
実務上の射程
法人格の不存在や代理権の欠缺等により当初の契約が無効であっても、別個の契約として再締結された場合の独立性を肯定する。また、事後的な「承認」が錯誤主張を封じる有力な評価事実となる点に実務上の意義がある。答案上は、契約の承継性や追認の有無が問題となる場面で活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)441 / 裁判年月日: 昭和32年3月1日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和29(オ)490 / 裁判年月日: 昭和31年12月28日 / 結論: 棄却
契約解除のような相手方ある単独行為についても、通謀による虚偽の意思表示は成立し得る。
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【結論(判旨の要点)】民法110条の権限外の表見代理が成立するためには、原則として、行為当時において基本代理権が存在することを要する。過去に存在した代理権が消滅した後に権限外の行為が行われた場合は、同条を直接適用することはできない。 第1 事案の概要:上告人の復代理人Eは、上告人のために封鎖預金の解除払戻に関する代理権…