判旨
取消権の行使は必ずしも明示的に行われる必要はないが、単に借受金を返済するから土地を返還してほしいという申入れがなされたにすぎない場合には、直ちに相手方の所有権取得を否認して取消権を黙示に行使したものとは認められない。
問題の所在(論点)
「借受金を返済するから土地を返してほしい」という趣旨の申入れが、売買契約の取消権を黙示に行使したものと認められるか。
規範
取消権の行使は、相手方に対する意思表示によって行われるが(民法123条)、その意思表示は必ずしも取消しの文言を用いる必要はなく、黙示的になされることも妨げられない。もっとも、その行為が実質的に既往の法律関係を否定し、取消しの効果を発生させる法的確定的な意思を含むものと客観的に認められることを要する。
重要事実
親権者Fの代理人Dが、未成年者Eの所有する本件土地をGに売却したが、上告人側は後に旧民法887条(親族会の同意欠缺)に基づき当該売買の取消しを主張した。その際、上告人側が相手方に対し「借受金を返済するから土地を返してもらいたい」という申入れを行った事実があり、これが黙示の取消権の行使にあたるかが争点となった。
あてはめ
上告人側の申入れは、あくまで借用金の返済と引き換えに土地の返還を求めるという事実に着目した交渉の趣旨に留まるものである。この言動は、相手方の有効な所有権取得を根底から否認し、契約を遡及的に無効とする取消権行使の法的意思を客観的に示すものとは解されない。したがって、当該申入れをもって暗黙に取消権が行使されたと認定することはできない。
結論
単なる返還の申入れは、特段の事情がない限り取消権の行使とは認められない。本件では取消しの意思表示があったとは認められず、取消しの効力は生じない。
実務上の射程
事件番号: 昭和30(オ)129 / 裁判年月日: 昭和31年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否に関し、代理人と称する者に権限があると信ずべき正当な事由の有無は、契約締結当時の諸事情に基づき客観的に判断されるべきである。本件では、代理人と称する訴外Dに権限があると信じたことについて、相手方の代理人に正当な事由が認められるとした原審の判断が維持された。 第1 事案の概要:上告人を…
黙示の意思表示による取消しの成否が問題となる事案において、単なる事後の原状回復的な要求や和解交渉の提示が、直ちに法的構成としての取消権行使に直結しないことを示す。答案上は、意思表示の有無を認定する際の「法的確定的な意思の有無」を判断する指標として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1197 / 裁判年月日: 昭和40年11月16日 / 結論: 棄却
売買契約解除の場合に割賦支払済代金は売主において没収する特約があつたとの原告主張を被告が否認する旨主張しているからといつて、原告の原状回復請求に対し、支払済代金の返還をもつて同時履行の抗弁を提出したものとは解されない。
事件番号: 昭和29(オ)490 / 裁判年月日: 昭和31年12月28日 / 結論: 棄却
契約解除のような相手方ある単独行為についても、通謀による虚偽の意思表示は成立し得る。