売買契約解除の場合に割賦支払済代金は売主において没収する特約があつたとの原告主張を被告が否認する旨主張しているからといつて、原告の原状回復請求に対し、支払済代金の返還をもつて同時履行の抗弁を提出したものとは解されない。
同時履行の抗弁の主張とは認められないとされた事例
民法533条,民訴法186条
判旨
売買契約解除に伴う原状回復義務について、支払済代金の没収特約を否認する主張をしたとしても、当然に同時履行の抗弁を主張したものとは解されない。また、訴訟提起後に作成された書面であっても、直ちに証拠能力が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
1. 特約の存在を否認する主張に、解除に伴う原状回復義務の同時履行の抗弁が含まれていると解すべきか。 2. 訴訟提起後に作成された書面を証拠として採用することの許容性。
規範
同時履行の抗弁(民法533条)は権利抗弁であり、当事者が訴訟においてこれを援用する意思を明示することを要する。反対義務の発生を基礎づける事実(特約の否認等)を主張するのみでは、抗弁権を行使したとはみなされない。また、証拠の証拠能力については、作成時期が訴訟提起後であることをもって排斥されるものではなく、自由心証主義(民訴法247条)のもとで裁判所の合理的な判断に委ねられる。
重要事実
売買契約が解除された際、売主(被上告人)は支払済の割賦金を没収する旨の特約があると主張した。これに対し買主(上告人ら)は、当該特約の存在を否認したが、第一審および控訴審において同時履行の抗弁(代金返還と目的物返還の引換え)を明示的には主張しなかった。また、訴訟提起後に作成された書面(甲7号証)が証拠として採用されたことに対し、上告人が証拠法則上の違法を主張して上告した事案である。
事件番号: 昭和30(オ)507 / 裁判年月日: 昭和32年10月31日 / 結論: 破棄差戻
書証の記載およびその体裁から、特段の事情のない限り、その記載どおりの事実を認めるべきである場合に、なんら首肯するに足る理由を示すことなくその書証を排斥するのは、理由不備の違法を免れない。
あてはめ
1. 同時履行の抗弁について、上告人らは特約を否認したにすぎず、原審において抗弁として援用する意思表示を行っていない。否認の主張は事実関係の争いであり、これをもって当然に同時履行の抗弁がなされたと解することはできない。したがって、原審に判断遺脱や審理不尽の違法はない。 2. 証拠採用について、書面が訴訟提起後に作成されたという一事をもって、その証拠能力が否定される法理は存在しない。原審が証拠の真正を認定し、これを事実認定の資料に供したことは裁判所の合理的な裁量の範囲内である。
結論
同時履行の抗弁は明示的な主張を要し、特約の否認から当然に導かれるものではない。また、訴訟提起後の作成書面の証拠採用も適法であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
同時履行の抗弁が権利抗弁であること、および証拠能力に関する自由心証主義の原則を確認した判例である。答案上は、解除時の原状回復(民法545条)に際し、引換給付判決を求めるためには、単に返還債務を争うだけでなく「同時履行の抗弁の援用」が必要であることを指摘する際の根拠となる。
事件番号: 昭和37(オ)567 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: その他
ある地域を所有することを前提とし、同地域上に生立する立木の不法伐採を理由とする損害賠償の請求の当否を判断するに当り、当該地域の一部のみが請求者の所有に属するとの心証を得た以上、さらにその一部に生立する立木で伐採されたものの数量、価格等について審理すべきことは当然であり、この際右の点について、従来の証拠のほかに、さらにあ…
事件番号: 昭和37(オ)1019 / 裁判年月日: 昭和39年9月15日 / 結論: 破棄差戻
大阪市内の郵便局に書留速達郵便物として差し出した控訴状が、通じて四日を費して名古屋市内の裁判所に配達され、控訴代理人の予知できない事情に基づく郵便物延着の疑をさしはさみうるにかかわらず、この間の事情を審究せず、右郵便物配達の時にはすでに控訴期間が経過していたとの理由で、控訴を不適法として却下した判決には、審理不尽の違法…
事件番号: 昭和29(オ)730 / 裁判年月日: 昭和32年11月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取消権の行使は必ずしも明示的に行われる必要はないが、単に借受金を返済するから土地を返還してほしいという申入れがなされたにすぎない場合には、直ちに相手方の所有権取得を否認して取消権を黙示に行使したものとは認められない。 第1 事案の概要:親権者Fの代理人Dが、未成年者Eの所有する本件土地をGに売却し…
事件番号: 昭和37(オ)671 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
原審において主張なく認定のない事実をもつて原判決の確認の利益に関する判断を非難することは、上告理由として採用できない。