書証の記載およびその体裁から、特段の事情のない限り、その記載どおりの事実を認めるべきである場合に、なんら首肯するに足る理由を示すことなくその書証を排斥するのは、理由不備の違法を免れない。
書証を排斥するについて理由不備の違法があるとされた一事例
民訴法185条,民訴法191条
判旨
裁判所が証拠の採否を決するにあたっては、主要な事実の存否に関わる有力な書証等について、特段の事情がない限り記載内容を尊重すべきであり、合理的な理由を示さず漫然と証拠を排斥することは、審理不尽および理由不備として違法となる。
問題の所在(論点)
裁判所が証拠を採否する際の自由心証主義の限界、および主要事実の存否に直結する有力な書証を排斥する場合の理由提示義務(審理不尽・理由不備の有無)。
規範
事実認定において、提出された書証がその記載文面や体裁から反対事実を認めるべき特段の事情がない限り、その記載内容を信認すべき客観的価値を有する場合、裁判所がこれを採用しないのであれば、首肯するに足りる具体的な理由を示さなければならない。これを行わずに証拠を排斥することは、判決に影響を及ぼす審理不尽・理由不備にあたる。
重要事実
上告人は、本件土地の代金400円を自己が負担し、現実に使用収益(一部賃貸)していたこと、および、先代Eに買取り交渉を依頼したところ、Eが自己名義で売買契約書を作成し勝訴判決を得た等の事情を主張した。上告人はこれらの事実を証明するため、甲第3号証(奥書あり)、甲第7ないし第9号証(内容・体裁が整ったもの)等の書証を提出した。しかし、原審はこれらの各事実や証拠について逐一検討せず、何ら合理的な理由を示すことなく「採用できない」として上告人の主張を退けた。
事件番号: 昭和33(オ)633 / 裁判年月日: 昭和35年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の排斥理由を判決文に逐一記載する必要はなく、裁判所の専権に属する証拠の取捨判断及び事実認定に不合理がなければ適法である。 第1 事案の概要:本件土地の売買をめぐり、当事者間の契約が知事の許可を条件とする単純な売買契約であるか、それとも上告人が主張するような譲渡担保であるかが争われた。原審は、提…
あてはめ
本件において、上告人が提出した各書証は、その奥書や文面、体裁に照らせば、反対事情がない限り記載どおりの事実を認めるのが当然といえるほど高い証明力を有するものであった。また、当該書証は代金出捐や使用収益という、所有権の帰属を判断する上で不可欠な事実を裏付けるものである。原審は、これら有力な証拠と人証を照合して考量すれば上告人の主張事実を肯定し得たにもかかわらず、首肯すべき理由を一切示さず漫然と排斥した。これは自由心証主義の範疇を超えた審理不尽であり、理由不備の欠陥があるといえる。
結論
原判決には審理不尽・理由不備の違法があるため、破棄を免れない。本件を原審に差し戻すべきである。
実務上の射程
民事訴訟における事実認定の合理性を争う際の根拠となる。特に、客観的価値が高いと思われる書証が理由なく無視された場合や、主張に対する判断遺脱がある場合に、上告理由(民訴法312条2項6号等)を基礎付ける判例として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)406 / 裁判年月日: 昭和34年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】役場備付の公簿上の図面等であっても、他の証拠に照らしてその記載が真実と認め難い場合には、裁判所はこれを証拠として採用しないことができる。 第1 事案の概要:上告人は、役場に備え付けられていた公簿上の図面等の記載を根拠として、原審の事実認定に経験則違反があると主張した。しかし、原審は当該図面の記載を…
事件番号: 昭和39(オ)1197 / 裁判年月日: 昭和40年11月16日 / 結論: 棄却
売買契約解除の場合に割賦支払済代金は売主において没収する特約があつたとの原告主張を被告が否認する旨主張しているからといつて、原告の原状回復請求に対し、支払済代金の返還をもつて同時履行の抗弁を提出したものとは解されない。
事件番号: 昭和37(オ)671 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
原審において主張なく認定のない事実をもつて原判決の確認の利益に関する判断を非難することは、上告理由として採用できない。
事件番号: 昭和32(オ)1079 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が同一の証言の一部を採用し他を排斥する場合、判文上その区分が了知できれば足り、逐一内容を列記して明示したり排斥の理由を示したりする必要はない。 第1 事案の概要:上告人(合資会社A1およびA2株式会社)は、土地建物の所有権取得に関する原審の事実認定につき、証拠の取捨選択に不備があるとして上告…