ある地域を所有することを前提とし、同地域上に生立する立木の不法伐採を理由とする損害賠償の請求の当否を判断するに当り、当該地域の一部のみが請求者の所有に属するとの心証を得た以上、さらにその一部に生立する立木で伐採されたものの数量、価格等について審理すべきことは当然であり、この際右の点について、従来の証拠のほかに、さらにあらたな証拠を必要とする場合には、これについて全く証拠方法のないことが明らかであるときを除き、裁判所は当該当事者にこれについての証拠方法の提出を促すことを要するものと解するのが相当であり、このような措置に出ることなく、漫然証拠がないとして請求を棄却することは、釈明権の行使を怠り、審理不尽の違法を犯すものというべきである。
立証についての釈明権の不行使が違法とされた事例。
民訴法127条,民訴法394条
判旨
裁判所が当事者の主張する地域の一部のみを当該当事者の所有と認める心証を得た場合、その部分に生じた損害額の立証を促すことなく、漫然と証拠不十分として請求を棄却することは、釈明権の行使を怠った審理不尽の違法がある。
問題の所在(論点)
裁判所が、請求の前提となる事実の一部のみを認める心証を得た場合に、その範囲に応じた立証を促すべき釈明義務(民事訴訟法149条参照)を負うか。
規範
当事者は裁判所の心証を予期できず、特定の部分について立証を重ねる必要性を判断できない場合がある。したがって、請求の根拠となる地域の一部のみが請求者の所有に属するとの心証を得た裁判所は、当該部分における損害の数量・価格等について、全く証拠方法がないことが明らかな場合を除き、当事者に証拠提出を促す釈明権を行使すべき義務を負う。
重要事実
上告人は、乙地域および丙地域の両方に生立する立木が不法に伐採されたとして損害賠償を請求した。原審は、乙地域は上告人の所有ではないが丙地域は上告人の所有に属すると判断した。しかし、提出された証拠からは乙丙両地域を合計した伐採本数・価格しか判明せず、丙地域のみの損害額を算出することは不可能であるとして、原審は立証を促すことなく、直ちに損害額の証明不十分を理由に請求を棄却した。
事件番号: 昭和39(オ)1197 / 裁判年月日: 昭和40年11月16日 / 結論: 棄却
売買契約解除の場合に割賦支払済代金は売主において没収する特約があつたとの原告主張を被告が否認する旨主張しているからといつて、原告の原状回復請求に対し、支払済代金の返還をもつて同時履行の抗弁を提出したものとは解されない。
あてはめ
本件では、原審は丙地域のみが上告人の所有に属するとの判断に到達している。上告人としては、裁判所が乙丙両地域を一括して判断するか、いずれか一方のみを認めるかをあらかじめ予期することはできない。そのため、丙地域のみの損害額を詳細に立証する必要があるかを知り得ない状態にあった。このような状況下で、原審は証拠方法が全く存在しないことが明らかでない限り、上告人に対し丙地域に限定した立証を促すべきであったといえる。
結論
裁判所が釈明権の行使を怠り、証拠の提出を促さないまま損害額の立証不十分として請求を排斥したことは、釈明義務違反による審理不尽の違法があるため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
裁判所が当事者の予期しない法的構成や事実認定を行う場合に認められる「不意打ち防止」としての釈明義務を認めたものである。答案上では、立証責任を負う当事者が、裁判所の心証次第で追加の立証が必要となる場面において、裁判所が適切な示唆(釈明)を行うべきであったことを主張する際に有用である。
事件番号: 昭和30(オ)507 / 裁判年月日: 昭和32年10月31日 / 結論: 破棄差戻
書証の記載およびその体裁から、特段の事情のない限り、その記載どおりの事実を認めるべきである場合に、なんら首肯するに足る理由を示すことなくその書証を排斥するのは、理由不備の違法を免れない。
事件番号: 昭和43(オ)1267 / 裁判年月日: 昭和44年6月24日 / 結論: その他
判示のように、当事者の主張が法律構成において欠けるところがある場合においても、その主張事実を合理的に解釈するならば、正当な主張として構成することができ、当事者の提出した資料のうちにもこれを裏付けうるものがあるときは、当事者にその主張の趣旨を明らかにさせたうえ、これに対する当事者双方の主張立証を尽くさせるべきであり、これ…
事件番号: 昭和37(オ)1019 / 裁判年月日: 昭和39年9月15日 / 結論: 破棄差戻
大阪市内の郵便局に書留速達郵便物として差し出した控訴状が、通じて四日を費して名古屋市内の裁判所に配達され、控訴代理人の予知できない事情に基づく郵便物延着の疑をさしはさみうるにかかわらず、この間の事情を審究せず、右郵便物配達の時にはすでに控訴期間が経過していたとの理由で、控訴を不適法として却下した判決には、審理不尽の違法…