土地所有権確認請求訴訟の第一審で請求を認容された甲が、控訴審において、右土地の時効取得の主張を予備的に追加し、その後これを撤回した場合に、右主張が維持されていれば請求が認容されることも十分に考えられ、誤解ないし不注意に基づいて右の撤回をしたとみられるなど判示のような事情があるときは、右の撤回について甲の真意を釈明することなく請求を棄却することは、釈明権不行使の違法を免れない。
時効取得の予備的主張の撤回について釈明権不行使の違法があるとされた事例
民訴法127条
判旨
当事者が提出した有力な攻撃防御方法を、不注意や誤解に基づき撤回したと見られる場合、裁判所は真意を確認すべき釈明義務を負う。これを怠り、当該主張を維持していれば勝訴の可能性があった請求を棄却することは、審理不尽・理由不備の違法にあたる。
問題の所在(論点)
当事者が自己に有利な攻撃防御方法を「錯誤」により撤回した場合において、裁判所がその撤回の真意を釈明せずに請求を棄却することが、釈明権の行使を怠った審理不尽・理由不備の違法にあたるか。
規範
裁判所は、当事者が法律的知識の欠如や誤解、不注意によって、自己に有利な主張を撤回し、あるいは提出しないまま不利益な判決を受けるおそれがある場合、釈明権(民訴法149条)を行使して、当事者の真意を確かめ、主張を整理させる義務を負う。特に、撤回された主張が維持されていれば、特段の立証を要せずとも請求が認容される蓋然性が高い場合には、その撤回の真意を釈明すべき義務が認められる。
重要事実
土地所有権確認訴訟において、一審で全面勝訴した原告(上告人)が、二審で「取得時効」の予備的主張をいったん提出したが、次期日に「錯誤があった」としてこれを撤回した。二審裁判所は、公図等の記載から主位的請求(境界等の主張)は認めがたいと判断したが、原告が長年耕作を継続していた事実は認定しており、時効の主張が維持されていれば、追加の立証なしに請求が認容される可能性が十分に認められた。
事件番号: 昭和43(オ)1267 / 裁判年月日: 昭和44年6月24日 / 結論: その他
判示のように、当事者の主張が法律構成において欠けるところがある場合においても、その主張事実を合理的に解釈するならば、正当な主張として構成することができ、当事者の提出した資料のうちにもこれを裏付けうるものがあるときは、当事者にその主張の趣旨を明らかにさせたうえ、これに対する当事者双方の主張立証を尽くさせるべきであり、これ…
あてはめ
上告人は長年の占有事実により、時効主張を維持していれば所有権確認が認められる蓋然性が極めて高かった。それにもかかわらず、「錯誤」という不明瞭な理由で同主張を撤回したのは、上告人の誤解や不注意によるものと推認される。このような状況下では、裁判所は原告の真意を釈明し、必要であれば時効主張を維持するよう再考を促すべきであった。これを怠って直ちに請求を棄却した原審の措置は、適正な裁判を実現するための釈明義務に違反している。
結論
原判決中、上告人敗訴部分を破棄し、東京高等裁判所に差し戻す。釈明権行使の懈怠は、判決に影響を及ぼすことが明らかな審理不尽にあたる。
実務上の射程
弁論主義の修正としての「釈明義務(特に示唆義務)」が肯定される典型的な類型を示す。一審勝訴後の二審で、当事者が不用意に主張を撤回し、裁判所がその不利益を察知し得る場合に、裁判所の審理義務を強調する文脈で活用できる。答案上は、当事者の法的無知や不注意が顕著な事実を拾い、釈明権行使の必要性を論証する際の根拠となる。
事件番号: 昭和37(オ)567 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: その他
ある地域を所有することを前提とし、同地域上に生立する立木の不法伐採を理由とする損害賠償の請求の当否を判断するに当り、当該地域の一部のみが請求者の所有に属するとの心証を得た以上、さらにその一部に生立する立木で伐採されたものの数量、価格等について審理すべきことは当然であり、この際右の点について、従来の証拠のほかに、さらにあ…
事件番号: 平成8(オ)1846 / 裁判年月日: 平成9年5月30日 / 結論: 破棄差戻
事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由は、判決書の必要的記載事項ではない。
事件番号: 昭和33(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、その自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるときは、適法に認められる。また、付随的義務の不履行を理由とする売買契約の解除は認められない。 第1 事案の概要:本件土地の売買において、履行期等に関する特約の有無が争点となった。控訴代理人は当初、特約が存在する旨の準備書面を提…